NHKのインタビュールームでマゲを結い直しながら優勝インタビューに応じた白鵬は、険しい顔でこう語った。
「(今場所)初日は不思議な感覚だった。モチベーションをどこにもっていこうか、浮き沈みが激しかった。自分だけじゃなく、みんなそういう思いだったからホッとした。このような場所を経験したことを自分の相撲人生に生かしていきたい」
協会首脳も、こんな白鵬に負けないぐらい胸をなで下ろしていた。関係者の中から、1人でも新型コロナウイルスの感染者が出れば、今場所は即座に打ち切りと決めていた。それだけに、8日目に幕内の千代丸が発熱し、翌日に40度に上がり、「2日間、高熱が続いたので、感染の有無を調べるPCR検査を受ける」という連絡が入ったときは全員、真っ青になった。
幸いにも、陰性と判明。左足の蜂窩織炎(ほうかしきえん)による発熱だったことが分かると、手を取り合って歓声を上げた。
千秋楽、審判委員や幕内力士らが土俵下に整列する中で協会あいさつをした八角理事長は、途中で何度も感極まって言葉を詰まらせた。
「立派に土俵を務めあげてくれました全力士、全協会員を誇りに思います」
感染が拡大する中で、15日間完走できたことがよほどうれしかったのだろう。そんな中、最大の収穫は、期待された朝乃山の大関取りの成功だった。白鵬、鶴竜の両横綱にはあと一歩、及ばなかったが、千秋楽、大関貴景勝を力強く押し倒して11勝目を挙げた。
「本格的な右四つの力士。大関になっても大崩れすることはない」(担当記者)
昇進の目安の12勝には届かなかったが、審判部はそうゴーサインを出した。
開催を強行したおかげで、相撲協会はノドから手が出るほど欲しかった2人目の大関を得た。これで来場所は「2横綱2大関」時代に戻るが、問題はやはりコロナ。果たして“本来のカタチ”で開催できるだろうか。