野球界が負ったダメージは、センバツ甲子園中止だけではなかった。プロ野球、Jリーグ、大学リーグ戦など他のスポーツ団体も、最も影響力の大きい高校野球が「中止」を決断したことで、危機意識を深めつつある。今後、目を背けることのできない“現実”をどう解決すべきか…。
「日本高等学校野球連盟(高野連)がセンバツ大会の中止を発表したのは3月11日。高野連は4日にも運営委員会と臨時理事会を開き、『開催か、中止か?』を協議し、『開催する方向で』と出場各校に通達していました。最後まで球児たちのために開催する方法を模索した努力は認めますが、4日時点で、たとえ無観客でも開催が厳しいことは分かっていたはずです。球児や関係者を余計に傷つける結果となってしまいました」(スポーツライター・飯山満氏)
「屋外の甲子園球場なら」「応援を行わないのであれば」という意見もあるが、勝ち上がれば、球児たちは宿舎に長期間滞在することになる。閉鎖された空間に滞在することによって生じる感染リスクは、その時点で分かっていたはずだ。
しかも、球児たちは一連の学校の臨時休校措置により、練習試合もままならない状況だった。
プロ野球、Jリーグは開幕戦を延期。大学の各スポーツ団体も春季リーグ戦を延期・中止を決断している。このしわ寄せが数カ月後、一気に押し寄せる。
「今年は五輪イヤーです。プロ野球は昨年より9日も早い開幕を予定していましたが、それだけ前倒ししても過密日程は避けられませんでした。すでに地方球場の日程をずらすなどの措置を検討していますが、そうなると、6月から始まる夏の甲子園大会の都道府県予選にも影響してきます。『昼は高校野球、夜はプロ野球』という球場も出てくると心配されています」(スポーツ協会担当記者)
ナイター設備のある地方球場ならば、“棲み分け”は可能だ。しかし、それらの設備があったとしても、日中に行われた高校野球が延長戦に突入した場合、あるいは、雨天中止でさらにタイトなスケジュールともなれば…。当然、地方大学のリーグ戦などもあるので、球場の数が足りなくなってくるのだ。
「高野連には棚上げ状態になっている問題がまだあります。4月半ばから始まる春季大会を開催するのかどうか、です」(アマチュア野球担当記者)
都道府県の高野連スタッフに聞いたところ、「時期を遅らせて」というニュアンスの回答が得られた。春季大会のスタートがずれた分、そのしわ寄せは後ろにずれるわけだ。
今回のセンバツ中止、棚上げ状態となっている春季大会のスケジュール調整。もはや夏の甲子園大会への影響は避けられそうにない。
「高校野球も学校行事の一環だと解釈すれば、学業優先となります」(同)
高野連は文科省“支配”の組織ではない。歴史的理由があってのことで、その是非はともかく、いくら「郷愁の大会」とはいえ、甲子園大会を優先するような措置がとられた場合、今度はバッシングの標的となりかねない。
「政府要請で学校が臨時休校となった直後、センバツ出場校の一部が『野球部だけ例外』の措置を取りました。倉敷商(岡山)、明石商(兵庫)は他の部活同様、野球部も練習中止となり、明徳義塾(高知)、大阪桐蔭、履正社(大阪)などは時間の短縮こそありましたけど、練習を続けていました。寮生を親元に帰していた出場校もありました」(同)
「例外措置」を取った学校に対し、非難の声もすでに出ていた。これも、中止の決定を先送りした高野連の責任と言える。
先送りといえば、プロ野球界にも影響が出てくるのは間違いない。
「オープン戦を無観客とし、試合(調整)を続けてきましたが、延期によって緊張感が切れてしまい、プレーが緩慢になりがち。特に開幕投手を伝えられていたピッチャーは調整が難しい」(ベテラン記者)
高野連を始め、どのスポーツ団体も日程調整に苦しんでいる理由に、東京五輪がある。高野連がセンバツ中止を発表した時点では開催する方向で、どの団体も五輪に協力するつもりでいた。しかし、状況次第では“五輪開催中の一部実施”も念頭に入れなければならなくなった。
「1964年に行われた前回の東京五輪でも、プロ野球は雨天などで全日程を消化できず、日本シリーズ第7戦が東京五輪の開会式とぶつかってしまいました」(球界関係者)
東京五輪は8月9日に閉会式を予定しており、その翌10日に夏の甲子園大会は開会式を迎える予定だ。しかし、センバツ大会の中止と、いまだ決められない春季大会の日程調整のため、地方予選の遅延が避けられない状態。そうなると、8月7日の組み合わせ抽選会に、全出場校が出揃っていない危険性もある。
プロ野球は高野連、大学野球との地方球場の棲み分けが厳しくなり、7月24日の五輪開会式までに予定の試合数を消化できなくなる。五輪の裏で国内スポーツ大会を開催していくしかない。五輪組織委員会は今後の行方を検討すべきだろう。