大相撲の取組が無観客で開催されるのは、戦争末期の1945年夏場所以来、75年ぶり、二度目のことになる。当時は7日制で、戦争で傷ついた傷痍軍人たちの慰労のために招待した、という記録が残っている。
いずれにしても、いつもの超満員の中と違って観客が1人もいない、ガランとした場内で行われるだけに、各所への影響も大きい。この無観客開催で最も損をするのは、間違いなく相撲協会だろう。観客がいないということは、入場料が一銭も入ってこないからだ。
1日約7000万円の入場料収入は完全にパー。15日間でざっと10臆5000万円、さらに館内の販売手数料などの雑収入を含めると、およそ11億円が吹っ飛んだことになる。ちなみにNHKは、この異例の場所も通常通り中継するので、その中継料である5億円は変わらないという。
「去年の相撲協会の収支は未発表ですが、一昨年の収支は約5億円の黒字。これで今年は赤字に転落するのは必至となりました」(スポーツ紙記者)
力士たちも悲喜こもごも。
「(観客がいないのは)イメージできない。力士はあの声援に背中を押されて頑張ろうという気になるんですから。外出も控えないと」
大関取りがかかる朝乃山は、そう肩を落とす。
関西出身の大関・貴景勝や、先場所に幕尻優勝した徳勝龍、さらに人気者の炎鵬らも無観客というのは痛手だ。とりわけ、貴景勝は去年も大阪のファンの熱い声援を背に大関昇進を成し遂げているだけに、ため息をついた。
「モチベーションがすごく大変。お客さんあっての相撲。(大阪について)毎年何かいい影響を与えてもらっているから、頑張りたい」
逆に、観客がいないことが追い風になりそうなのが白鵬、鶴竜の両横綱。先場所も白鵬が2個、鶴竜は3個と、このところ2人の金星献上数が急増している。
当然、負ければ大歓声が上がり、座布団が舞い、悔しさも倍加する。ところが、無観客ではその歓声もなく、座布団が舞わないのだから、心が傷つかずに済むのだ。
果たして、この沈黙が支配する異例ずくめの場所を制するのは誰か!?