2月1日のキャンプ初日、藤浪がいきなりブルペン入りした。直前まで行われていた甲子園球場での自主トレでもキャッチャーを座らせており、初日からのブルペン入りは、ある程度、予想されていた。しかし、持ち球の変化球すべてを投げ込むとは誰も思わなかった。
「オフの間も休まずに練習を積んでいた。沖縄で科学的なアプローチによる技術指導にも自費参加で取り組むなど、復活に掛ける意気込みは例年以上に高い」(在阪記者)
昨秋キャンプに続いて臨時コーチを務める山本昌氏(54)も「腕の振る位置が安定している」と合格点をつけた。だが、矢野燿大監督(51)は静観したまま。それについてこんな指摘も聞かれた。
「ブルペンと実戦のマウンドが違いすぎるんです。ブルペンで投げている時は、『こんな凄いピッチャー、いない』ってなるんです。196センチの長身から全身を使って投げるため、ストレートは速いだけではなくて重量感もある。それでも、矢野監督はマウンドで結果を出すまでは信用しないでしょう」(球界関係者)
昨秋キャンプがそうだった。山本氏のアドバイスを受けた藤浪は、表情も明るくなった。“復活の前兆”と周囲も期待したが、秋季キャンプ最後の紅白戦で結果を出せなかった。
そのせいだろうか。キャンプイン直前、関西圏のテレビ番組に出演した矢野監督は妙な発言をしていた。「藤浪の復活は?」の質問を受けた時、
「1年間、いい表情でやってもらえたら…」
と返したのだ。
藤浪がオフの間も必死にトレーニングをしていた話は聞こえていたはず。この発言を額面通りに解釈すれば、「構想に入っていない。復活すれば御の字」となる。
このことから、今季の矢野監督は、いつもとは違うのが分かる。
「球団上層部、本社は優勝してもらいたいの一心です。矢野監督は金本知憲前監督の『育成路線』を引き継いだと思っており、また、勝つことの難しさもよく分かっています。昨季はエラーが続いても我慢して選手を使い続けましたが、今年は結果重視のようです」(同)
そのフロントと現場のギャップを象徴する出来事の一つが、大量8人の外国人選手との契約だった。
「韓国球界から獲ったJ・サンズが疑問。外野手登録だが、ポジションは一塁か三塁。4番も予定して獲ったJ・ボーアは、残留させたJ・マルテと完全にポジションが重なる」(前出・在阪記者)
サンズは昨季、韓国で打点王を獲得。だが、韓国球界のスラッガーというと、阪神には苦い経験がある。一昨年、3億円強を払って獲ったW・ロサリオだ。
「サンズはスイングが速い。同じく韓国球界から巨人入りしたA・サンチェスに滅法強く、『巨人戦専用』なんて冗談も聞いた」(同)
阪神は韓国球界に太いパイプを持っている。クローザー・呉昇桓の成功例もあり、「現地協力者との関係を継続しておくため」に獲得との見方もある。しかし、それだけではないようだ。
「今季も藤浪が復活しないようであれば、阪神は決断しなければならない。『環境を変える』の声は以前からあったものの、もったいないという意見もあって…。また、他球団で復活となれば、阪神の指導力が問われる。だから、国内ではなく海外という意見もあった」(同)
昨年の半ば頃から「海外武者修行説」は聞かれていた。その時点での海外とは米球界を指していたのだが、ここに来て「韓国では?」との見方も強まってきた。
「米マイナーリーグで復活したら、帰って来ない。そのままメジャーに昇格して、上を目指すことになる。藤浪の不振の原因は、やはりメンタル。ブルペンとマウンドで投球が異なるのはそのせい。精神的な武者修行なら、より厳しい環境に送り込むべき」(同)
アジアにおいて、野球レベルは日本の方が上だ。しかし、西武の渡辺久信GMのように、台湾球界を経験し、グラウンド整備もままならない環境と日本時代のプライドを捨てることで視野を広げた選手は多い。
春夏甲子園を連覇してプロ1年目から活躍した藤浪にとって、過去の実績が全く通用しない韓国球界に身を投じることは、トラ帰還後に活きてくることも多いはずだ。
「韓国はアメリカ球界で伸び悩んでいる選手を獲り、活躍させて、日本や米球界に売るシステムに変貌しつつあります。サンズを売りたいという韓国側の願いを聞き入れた阪神は、『次に備えた』と見るべきです」(ベテラン記者)
プライドを捨てなければ、復活はない――。
山本臨時コーチは藤浪たちに自らの失敗談を聞かせている。阪神の投手陣が魅了された理由はこのへんにあるようだ。「失敗を糧に」は、藤浪の胸にも響いているはずだ。