ある栄養学を研究する医療関係者はこう説明する。
「昔、よく聞かされた諺に“腹八分目に病なし。腹十二分に医者足りず”というものがあります。食べ過ぎは、ありとあらゆる病気にかかり、いくら医者がいても対処できない。この現象は今でも当てはまり、病気や病人は一向に減る気配がない。それは、我々日本人が食べ過ぎ(腹十二分)の状態にあるということの証でしょうね」
さらに、前で挙げているメタボや高脂血、高血糖などの病気についても、常に“腹十二分”の状態にあると罹病する率が高いと指摘する。
最近は「免疫」という言葉がよく使われるようになったが、意味は文字通り「疫=病気」を免れるために体に備わっている能力。専門的に言うと「血液の中に存在する白血球の働き(能力)で、体内に侵入してきた細菌やがん細胞などを貪食(どんしょく)し、病気を防いでくれる」頼もしい免疫細胞である。
ところが、その“能力”を発揮すべき白血球が、我々がお腹一杯に飲食すると、まるで力を出さなくなってしまう。なぜか。
東京多摩医療センターの栄養管理スペシャリスト・黒崎恒彦氏はこう言う。
「我々のお腹が満腹状態になると、食物中の栄養素が胃腸から血液に吸収され、血液中の栄養状態もよくなる。すると、それを食べた白血球も満腹になり、外からバイ菌やアルゲン、がん細胞などが侵入してきても、それを食べようとしない。つまり“免疫力”を発揮せず、そのため体力は落ちてしまう。逆に空腹の時は、血液中の栄養状態も低下し、白血球も十分に栄養が摂れずに空腹状態になる。すると、空き腹を満たそうとバイ菌やがん細胞などの侵入者を貪欲に食べ始めるため、病原体を処理する能力も高まる。すなわち、“免疫力”が増強するということになります」
日頃から腹八分目にとどめて、少し空腹を感じるくらいの水準で過ごす人が、病気を遠ざけるというわけだ。人間も動物も、病気をすると食欲がなくなるのは、白血球の力を強めて病気を治そうとする反応の表れだと、黒崎氏は言う。
では「腹八分目」、免疫力を高める「プチ断食」というのは、簡単に実践できるのだろうか。
「少食の究極は断食ですが、食欲を抑えるのは辛いものです。腹八分目論にしても“もう少し食べられるかな、くらいで止めておくこと”とよく言います。それでも、美味しく食べているものを途中でやめるのも難しい。そのための工夫として、医療関係者は、『食事はゆっくりと噛んで食べること』『まずは野菜やスープ、煮物など低カロリーの物から食べて、少しでもお腹を満たして主食を摂るように』(いずれも満腹中枢が満腹のサインを受け取るのは、食事を始めてから約20分)などとアドバイスしています」(医療ジャーナリスト・深見純一氏)