「HARG療法は、米国に先行して日本で最初に私が臨床したものです。これまで500人以上の患者さんがこの治療を受け、発毛率は99%にのぼります。HARG療法のしくみをわかりやすく言えば、転んですり傷ができても自然にかさぶたができ新しい皮膚が再生する原理と、薄毛の頭皮に成長因子を注入すれば新しい頭皮が再生するという原理が同じだということ。また、従来の治療法では、女性の薄毛の悩みやストレスによる抜け毛、円形脱毛症などAGA以外の脱毛症に対応できない難点がありましたが、それも問題ありません」
確かに、頭皮にかける育毛剤にはミノキシジルが含まれている。それは元来、血圧降下剤であり、高血圧や低血圧の人、心臓に不安を抱える人には適さない。また、脱毛治療薬のフィナステリドは、肝機能障害を引き起こす副作用があることが報告されている。さらにフィナステリドは、胎児への影響から女性に対する使用は禁忌とされている。
では、これまでのAGA療法とHARG療法は、どのように異なるのか。
「そもそも薬を使って薄毛をどうするか、という方向性が違います。薄毛の頭皮というのは、いわば荒れ放題の田んぼのようなもの。たとえばフィナステリドの場合は、DHTを阻害して脱毛を食い止めるというものですが、HARG療法の場合は、田を耕し、土を豊かにすれば発毛するという発想です。今度、学会で発表する予定ですが、フィナステリドだけを使用した毛髪の増え具合と、HARG療法による毛髪の増え具合とを比べると、後者のほうが断然良いのです。HARG療法で使う薬剤は、アレルギーなど副作用がなく、安全性の面でも優れています」(福岡医師)
正常な毛髪は、成長期、退行期、休止期というヘアサイクルを繰り返す。休止期になると髪が抜けるが、毛母細胞の休眠が長期化し、成長期に移行しない状態が続くと“薄毛”となる。
HARG療法では、頭皮に注入された数種類の成長因子(AAPE)が活性を失った毛母細胞に刺激を与えて発毛を促し、休止期の毛母細胞を再び成長期へと移行させるとともに、成長期の毛母細胞をさらに活発化させるという。
また、毛根を包む毛包という組織にも毛包幹細胞があり、その分化により、毛髪の再生に必要な細胞を供給するほか、AAPEの刺激で自らも成長因子を分泌し、毛母細胞に刺激を与え続ける。まさに、毛髪の生産ラインがフル稼働するわけだ。
自身の治療法を開発するまで、従来の治療法を施術してきた福岡医師は、その効果に歯痒い思いをしてきたと述懐する。長年続いた“育毛3点セット”に終止符を打つ日が、やがて来るかもしれない、と語る。
毛髪再生医療はまだ発展途上。髪とは“なが〜い友達”でありたいものである。