読んで字の如し、エサの付いた仕掛けをポイントに“ぶっ込み”、あとは魚が掛かるのを待つという釣りです。
ということで、夏の夜のブッコミを楽しもうと、静岡県の清水港へ出かけました。急深な駿河湾に面し、港自体の規模もかなり大きい清水港。港内の岸壁からは様々な魚が狙えるため、休日には釣り人で大賑わい。しかし、夜になると賑わいも落ち着き、竿を並べてゆったりと楽しめるようになります。そんなところも夜ブッコミの魅力と言えましょうか。
まだ日のあるうちに港内の岸壁に到着すると、週末ゆえ多くの釣り人が竿を出していました。そこで時間調整を兼ねて、釣り場のすぐ裏手にある『高雄飯店』で腹ごしらえです。
清水といえば、マグロの水揚げ量において国内屈指の港。当然、船員さんや漁業関係者の出入りが多くなりますから、そういった港町には、たいていウマい中華料理店があるんですね。このお店も市場の関係者に教えてもらったのですが、濃い目の味付け&ガッツリ系のボリュームで大満足。いい腹ごしらえができました。
さて、とっぷりと日も暮れたところで再び岸壁へ。釣り人の大半は帰ったようで、先ほどよりもかなり静かな雰囲気になっておりました。さっそく適当な場所に釣り座を構え、4本の竿にエサの付いた仕掛けを結んでブッコミます。
★待望の一発に驚喜の夜明け!
今回狙うのはマダイ、クロダイ、キビレといったタイ類。エサにはユムシを使います。このユムシ、子供の“おちんちん”のような形をしており、海水を吸ったり吐いたりしながら収縮を繰り返す“ヘンな生き物”なのです。
他のエサに比べて大きいため小魚には食べられず、一方、タイ類にとっては大好物。この「掛かれば高確率で大当たり」というギャンブル性の高さが魅力のエサなんですね。
オトコの心の奥底にある射幸心を煽られると言いますか、とにかくドキドキの時間がタマランわけです。
待つことしばし。嗚呼、日付が変わりましたなぁ…。
「いつか大当たりが!」
そう信じて気長に待ちましたが、めぼしい反応はまるでナシ。ユムシエサの夜ブッコミは本命の確率が高い反面、このヒマな時間に耐えうる忍耐力も求められます。でも、いいんです。夏を感じさせる夜の匂いに包まれてボーッとしているのも、これはこれで気分がよいものですから。
そう悠長に構えていると、やがて白々と夜が明けてきました。「この夜明けの雰囲気がまたいいんだよなぁ」と相変わらずのんびりと構えます。
「ジイィィーッ!」
そんな気怠い雰囲気をぶった切るように、リールから糸が引き出される回転音が鳴り響きました。慌てて竿の元に駆け寄ると再び「ジイィーッ!」。頃合を見て竿を煽ると、十分な重量感に続いて「ギュンギュン!」と力強い抵抗が始まりました。
この釣りはアタリがあっても食い込まないことが多く、ハリ掛かりに至るまでのドキドキ感、抵抗が始まった瞬間の達成感といったら…これがまたタマらんのです
鋭さと力強さを併せ持ったタイ類特有の引きを楽しみながら巻き寄せてくると、足下に白銀の魚体が見えてきました。大事に玉網で取り込んだのは、型のよいキビレでした。この1尾で十分納得し、血抜きをして撤収と相成りました。
★さすがはタイ系!上品なお造りに
キビレ(標準和名キチヌ)は、一般的な知名度こそ低いものの、れっきとしたタイの仲間。市場ではお手頃価格ではあるものの、さすがはタイ類、味はピカイチです。
今回はお造りにして賞味しましたが、脂乗りが非常によい上品な白身は、マダイにも勝るとも劣らない味わいでありました。
というか、皮を引いてしまえばマダイと言われても分からないような…。合わせていただいた清水の地酒「純米臥龍梅」が、これまた秀逸。米の強い旨味と甘さが白身の味を引き立てます。
夜通しの釣りの後ということで、昼間からイイ魚で一杯やってしまいましたが、一晩中竿を眺めた後に楽しむ“昼酌”も、また至福のヒトトキでありました。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。