週に一度だけ繰り広げられる太田と神田のガチトークは、「太田松之丞 〜悩みに答えない毒舌相談室〜」。端から毒舌と謳ってしまうセンスの悪さは、この際無視。2人は、視聴者から寄せられた悩み相談に乗るフリをして、自分の方向へトークを転がしていく。相談に乗るというのは、番組構成上の体裁にすぎない。
聞く者に情景描写をさせるセンス、話術において、神田は突出している。そこに太田という暴走機関車が加わることによって、他人の悩み相談という趣旨からどんどん脱線。別室のモニタリング室で視聴している爆問・田中裕二が唯一、視聴者側に近い感性の持ち主だ。転がり、転がせる2人の天才を見届けているのが、フツウの人・田中なのだ。
太田と神田には、共通点が多い。学生時代は明るい思い出が乏しく、対人関係を育むことが苦手だった。他人と埋めることができない心の隙間に侵食したのは、故・立川談志師匠。太田は落語界きっての偉才に心を奪われ、神田は弟子入りを考えた。余談だが、2人は現在、TBSラジオで冠レギュラー番組を抱えている(注・太田はコンビとして)。
神田は、講談の普及活動のためにあえて今、芸能人になっている。今よりもっと芸能界のしきたりやマナーを知らなかったころ、「言ってはいけないこと」が予想以上に多いことを教えてくれたのは、ほかならぬ太田だった。常識なんてぶっ飛ばせという精神でテレビに出ていると見せかけている太田こそが、実は常識人だったというわけだ。
神田は言う。「『おまえは芸能界の地図を持ってない』と言う太田さんが持ってる地図も、おかしい」と。対して、太田はすかさず、「新しい地図……」と漏らす。これは、元SMAPの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾がジャニーズ事務所からの独立後に立ち上げた新組織名だ。あえてぶっ込むことで、神田という孤高の天才を前に、太田が太田たらんとした瞬間だ。
9月11日深夜オンエアの「第9夜」は、「口が軽い人とどう接するべき?」という悩み相談を導入口にして、太田は亡くなった実父、神田は祖母や師匠を回顧した。これまでには、「物怖じせずに発言するにはどうしたらいい?」、「住む場所は人に影響を与えますか?」、「何かあったらすぐ謝る人についてどう思いますか?」、「夢が叶う可能性は何%くらいですか?」などの悩みが、2人にぶつけられた。その都度、金言を量産してきた。
混ぜたら危険だと思われた2人がこじ開けた、新たなフェーズ。10月の番組改編期でバラエティ改革に前進するテレ朝が発掘した「太田松之丞」という埋蔵金。まだ、化ける。
(伊藤由華)