カルシウムには骨を強くする働きがあり、高齢になるほどかかりやすくなる骨粗しょう症のリスクを下げてくれる。また、動脈硬化を予防して高血圧や糖尿病を改善させる、イライラを解消させる、免疫の情報伝達機能を高めるといった働きもあるので、日頃からしっかりと摂取しておきたい栄養素である。
しかし、カルシウムは体内で生成されないので、食べ物などから摂取しなければならない。しかも、カルシウムが豊富な食材の代表例である牛乳は吸収率が約50%、小魚に至っては約30%しかない。つまり、食べた分の半分、もしくはそれ以上が、吸収されずに排出されてしまうのだ。そのため、カルシウムの摂取においては、吸収率を高めることが大事なのである。
お酢を研究して40年、「お酢博士」としてテレビや雑誌、ラジオなどに登場する東京農業大学名誉教授の小泉幸道先生は、「お酢を使えば、カルシウムが効果的に得られます」と説く。
「カルシウムが豊富な食材とお酢を一緒に摂ると、お酢が食材のカルシウムを通常より多く溶け出させ、体内に吸収しやすくしてくれます。例えば、鶏の手羽先やイワシといった肉や魚の骨にはカルシウムが多く含まれていますが、他の成分としっかり結びついているので、容易には溶け出しません。ところが、食材をお酢で煮込むとカルシウムが他の成分から離れ、煮汁に溶け出し、簡単に骨を強くすることができるのです」(小泉先生)
★カルシウムが豊富な貝の殻
「お酢を混ぜたら味がキツくなるのでは?」と懸念する方もいるかもしれないが、400mlの煮汁に大さじ1杯(15ml)のお酢を入れる程度なら味はさほど変わらず、むしろ上品な味わいになる。また、小魚類のカルシウム吸収率は30%程度だが、お酢を使って南蛮漬けやマリネにすることで、吸収率を高くすることができる。
そして、小泉先生が最もお勧めしているのが、アサリやシジミといった貝類を具にした「酢みそ汁」だ。
「我が家でも、アサリやシジミのみそ汁を作る時は、必ずお酢を入れます。お酢を入れた水でカルシウムが豊富な殻つきの貝を煮ると、殻に含まれるカルシウムが酢の成分と結びつき、煮汁に溶け出します。その結果、酢を入れずに煮た時と比べて、3倍以上ものカルシウムが溶け出します。さらに、マグネシウムやカリウムといった他のミネラルまで引き出してくれます」(小泉先生)
1杯のみそ汁(200ml)に入れるお酢の目安は、小さじ1と2分の1(7.5ml)程度。それで通常の3.4倍のカルシウムが溶け出し、酸味もほとんど感じない。しかも、まろやかなコクが出ておいしさがアップする。小さじ2杯(10ml)だとカルシウムが4.2倍溶け出すが、少し酸っぱいみそ汁になるので、お酢が苦手な人は少し控えめにするとよい。
「『お酢のにおいがキツい』というお子さんも少なくないと思いますが、酢みそ汁なら、そんなに抵抗なくお酢を摂ることができます。また、免疫力を高める効果も期待できるので、これからの季節、風邪の予防にはうってつけです」(小泉先生)
お酢の理想的な1日の摂取目安量は大さじ1〜2杯(15〜30ml)で、継続して摂ることで健康効果が得られる。高血圧の人を対象に行ったデータでも、お酢を摂り続けて2週間で血圧が降下したが、飲用をやめると血圧が再び上がってしまっているので、毎日継続して飲むことが大事だ。
「酢みそ汁なら、1日2杯飲めば大さじ1杯分のお酢が摂取できます。朝晩の食事にみそ汁を食べるのは、そんなに難しくはないはずです」(小泉先生)
★栄養素を多く摂取できる
貝入りの酢みそ汁がお勧めなのは、単にカルシウムがたくさん摂取できるだけでなく、お酢とみそ汁に含まれる栄養素も一緒に摂れることが大きい。
「お酢もみそ汁も、元々健康効果が高いスーパーフードです。貝が入った酢みそ汁は脳卒中や心不全、高血圧や糖尿病の予防・改善に有効なのに加え、貝の殻から出るカルシウムのおかげで、骨粗しょう症を予防する力まで高まります」(小泉先生)
お酢には血圧を下げる作用があるが、これはお酢に含まれる酢酸が脂肪の合成を抑制し、なおかつ脂肪の燃焼を促してくれるからだ。他にも、酢酸には食後血糖値の上昇を抑制する効果があり、高血圧を防いで疲労回復を促進してくれる。
★栄養価が高いお酢とみそ汁
そして、お酢と同じ発酵食品であるみそにも、高い健康効果がある。
みそ大豆や塩、麹を発酵させる過程で乳酸菌やビタミンなどが大量に生成され、それによって栄養価が高くなる。また、腸内環境を整えてくれるので免疫力も高まり、病気を防いでくれる。
他にも、国立がんセンター研究所で発表された調査では、みそ汁を摂取している人ほど胃がんの死亡率が低いという研究結果も出ている。さらに、コレステロールの抑制や老化防止、消化促進などの効用もあるとされており、高血圧や脳卒中、心筋梗塞などの予防効果が期待できる。
「みそ汁は具を変えることで、毎日食べても飽きません。しかも、具だくさんにすれば立派なおかずにもなります。昔の日本人の食生活はとても質素でしたが、それでも健康でいられたのは、間違いなくみそ汁のおかげだと思います」(小泉先生)
これからの季節は寒さがもっと厳しくなる。「発酵食品×発酵食品」の酢みそ汁で体を温め、なおかつ栄養も摂ってしまおう!
◉「貝×酢」のみそ汁の主な効果
脳卒中や心不全、高血圧や糖尿病の予防・改善に有効なのに加え、カルシウムを効果的に摂取でき、骨粗しょう症を予防する力が高まる。
◉「酢」の主な健康効果
主成分である酢酸には血圧を下げる作用があり、他にも内臓脂肪の減少や血糖値の上昇の抑制、疲労回復の促進などの効果がある。
◉アサリに代用可!「シジミ」のみそ汁の作り方
材 料(1人前)水:200ml 殻つきのシジミ:50gお酢(穀物酢または米酢):小さじ1と1/2(7.5ml)みそ:小さじ2(10g)
作り方1:鍋に水とお酢、シジミを入れ、8分間弱火で煮る。2:火を止めて2〜3分冷まし、みそを入れて溶かせば完成。
小さじ1と1/2なら酸味なし!入れるとまろやかな味わいに
加えるお酢の量は、通常の3.4倍のカルシウムが溶け出し、酸味もほとんど気にならない小さじ1と1/2がお勧め。お酢を加えることで健康効果が増えるのはもちろん、みそ汁にまろやかなコクが出て、おいしさもアップする。お酢を小さじ2にすると通常の4.2倍のカルシウムが溶け出すが、少し酸っぱいみそ汁になる。
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監修/小泉幸道先生
東京農業大学名誉教授。専門は発酵食品学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行ってきた。監修書に『やせる・若返る・病気が消える! お酢レシピ 完全版』(笠倉出版社)などがあり、「お酢博士」としてテレビ等で活躍中。