花嫁人形を収めたガラスケースに故人の写真などを添えて寺や地蔵尊などに奉納する習慣は、戦後間もなく始まったとされている。戦争に行って命を落とした息子のため、両親が花嫁人形を買って寺に奉納。花嫁人形を奉納するのは、亡くなった息子や娘を持つ親やその親族で、彼らは、結婚をすることもなくあの世に行った子供のために、死後の世界で嫁や婿を迎えてあげる。このような習俗のことを総じて、『冥界結婚』もしくは『死後結婚』という。
●次々と炎の中に放り込まれていく人形たち
『冥界結婚』は、故人が結婚適齢期を迎えると行われる。亡くなったのが男であれば白無垢姿の花嫁人形を、女であるならば袴姿の花婿人形に故人の写真などを添えて奉納する。花婿と花嫁を一対とした夫婦人形を奉納する場合もある。「結婚式」も行われ、本尊の前に花嫁人形を置き、住職が読経を読み上げると、晴れて「夫婦」となるのだ。
花嫁人形が収められているガラスケースには、名前や住所が記された紙が貼られている。亡くなった人の名前は俗名(本名)だが、相手の名前は架空のものだ。
『川倉賽の河原地蔵尊』で花嫁人形を預かる期間は、例外を除き5年。以前は10年だったが、あまりにも次々と持ち込まれるようになり期間を半分にした。延長の申し出がない限り、5年を経て『御炊きあげ』が行なわれる。偶然にも筆者は『御炊きあげ』に立ち会うことが出来た。焼却炉の前に運ばれた花嫁人形は、僧侶の読経が始まると、次々と炎の中に放り込まれていった。
人形堂の中には重たい空気が垂れ込めていたが、遺族は、そのようなことを気にする様子もなかった。『冥界結婚』とは、青森県で暮らしている人たちにとって、ごく身近にある習俗のひとつなのである。