これは男性が気に入った未婚女性を相手の合意になしに無理やり犯し、既成事実を作って自分の妻にするというもの。“おっとい”とは地元言葉で「盗む」という意味。「犯された女性やその親は男性に嫁ぐことを事実上拒めなかった」と話すのは、地元在住の遠藤哲史さん(仮名・84歳)だ。
●狙われた時点で女性はほぼ逃げることができない
「断ったら、傷モノにされた事実を言い振らされ、娘っ子はその土地で生きていけんくなるし、両親も周囲から後ろ指をさされることになる。つまり、狙われた時点で、逃げることはできんっちゅうことよ」
ちなみに、遠藤さんの生まれ育った集落ではおっとい嫁じょが、戦前まで行われていたと言われているが…。
「それは、あくまでも表向きの話だな。戦後、廃れていったのは間違いないが、昭和30年代までこの地方で行われとったのは知っとる」
事実、昭和34年にこの地方で、おっとい嫁じょだと思われる強姦事件が起きている。地元在住の女性に、複数回にわたって結婚の申し込みを断られた男性が、協力者の友人と女性を拉致。行為に及んだのだ。
「新聞でも報じられ、この辺に住むワシら世代の人間はみんな覚えとるよ。風習によれば、女性とその両親が相手男性の家に訪れ、結婚受け入れの挨拶をするんじゃが、それをせんかった。それどころか、男と協力者の友人は婦女暴行で警察に捕まり、後ろ指さされたのはそいつらだったわけだ」
結果、この事件を境に、おっとい嫁じょはほぼ消滅。地元出身者でも40代以下の世代は、そんな風習があったことすら知らないという。
「あの風習は1人で行うもんではない。実行する際に、必ず協力者がいたんじゃ。建前上は女性が抵抗しないように身体を抑える役割じゃが、それだけでは終わらず、協力者もおこぼれを預かって行為に及ぶ者もおった。こんな鬼畜同然の所業が、風習として長年にわたり行われていたことは、地元の恥じゃ。正直、若い頃は興味があったのは否定せんが、娘や孫の世代に伝わらなくて本当に良かったと思う」
風習といえど、女性の尊厳を踏みにじる犯罪行為…。もともと消えゆく運命にあったのだ。