小沢氏は自民党総裁選について「総裁選ごっこみたいだ。もう少しまじめにやるべきではないか」とだけ吐き捨て、口にチャック。必要最低限の批判にとどめ、相手にしない姿勢をとっている。
しかし、10日には総裁候補5人がテレビ各局のニュース番組にはしご出演するなど、相も変わらず宣伝効果はバツグンである。完全なる“敵失”の福田首相放り投げ辞任が、民主党にプラスになるどころか、自民党に勢いをつけている。小沢氏がどんなにポーカーフェイスを決め込んでも、内心はハラワタが煮えくり返っていることだろう。
小沢氏は手をこまねいたまま流れに身を任せるのか?民主党関係者は「そんなはずがないでしょう(笑)」と余裕たっぷりに話す。
「いまは何を仕掛けても自民党を利するだけ。キャンキャン吠えるほど総裁選が賑やかになって、敵に塩を送ることになるから黙っている。マスコミが騒いでいるだけなのは、国民はよく分かっていますよ。『選挙の小沢』と言われるだけあって、抜き打ちで各選挙区の候補者事務所を回ってハッパをかけ、選挙に勝つための具体的指導をしているところ。解散・総選挙に照準を絞っているから自民党総裁選など眼中にない」(同関係者)。
政権与党のあるべき姿を国民に強く訴えたり、本格的な論戦を挑むのは、解散・総選挙に突入してからで十分間に合うと踏んでいるのだ。
そもそも東北人気質の小沢氏は、ひとつひとつの作業を丁寧に黙々とこなす。年齢の割にはフットワークも軽い。前出の関係者は「台風に田畑が荒らされたからといって、台風に石を投げても何の解決にもならない。小沢さんは台風が過ぎ去ったあとの総選挙を見越して、全国津々浦々まで回って次に植える“苗”の生長をチェックしている」と説明する。
複数メディアの総選挙議席予測では民主党の圧勝が指摘されているが、全く気を緩めることはないという。
それを実証するように民主党は衆院選に向けたマニフェスト作成に着手済み。小沢氏の無投票3選が正式に決まる21日の臨時党大会までに党内論議を詰め、政権交代への構想を大々的に発表するプランを進めている。昨年の参院選で与野党逆転の圧勝劇に導いた年金問題に再び焦点をあて、社会保険庁の標準月額報酬改ざん問題で自民党を追い込む戦略も描く。準備万端といったところだ。
一方、自民党総裁選は麻生氏が国会議員票387票の過半数を確保して優勢が伝えられている。告示日の10日には、他候補陣営の出陣式への出席議員がそれぞれ20人程度にとどまったのに対し、麻生陣営には代理出席を含めて165人が集まった。勝ち馬に乗りたいという政治家心理が働いたのか。有権者には選挙に浮かれているふうにも見える。
政治記者は「勝敗が見えてくれば必然的に興味は薄れ、活発な論戦もしらじらしくなる。自民党の小手先の候補者乱立劇は早くもピンチに陥ったといえます。選挙に強い小沢氏が“壊し屋”の本領を発揮するのは総選挙後です。連立相手など政界再編を踏まえて動いていますから、小泉元首相が壊しそこねた自民党を容赦なくぶっ壊すつもりでしょう」と指摘する。
得意の囲碁では数十手先を読むともいわれる小沢氏。目立たないときほど怖く、逆襲のシナリオは着々と動き始めている。
○総裁選5候補アピール合戦
自民党総裁選の5候補は10日午後、都内で共同会見に臨み、他候補との違いをそれぞれ訴えた。
「経験…かな」と豪語した麻生氏に、与謝野氏は「謙虚さと羞恥心」と皮肉で切り返した。小池氏は「女性の視点」、石原氏は「若さ」。石破氏は「首相は自衛隊の最高指揮官でもある。自衛隊が何をできるか知らずに外交はできない」と熱く訴えた。
優勢が伝えられる麻生氏は同日夜、他候補とともに生出演したニュース番組で、解散・総選挙のタイミングについて「補正予算は通すべきもの。(野党は)このところ何でもかんでも反対になっているが」などと発言。即解散・総選挙ありきではないものの、野党の姿勢次第ではあり得るとの含みを残した。