問題の裁判は、臓器移植に関する発言が名誉を毀損するとして医療法人が発言者の医師を提訴したもので、千葉地方裁判所で係属中である。証人尋問を申し出る場合、尋問内容をまとめた尋問事項書を提出する。
ところが、被告代理人が2010年7月9日付で提出した尋問事項書では「証人××に対する尋問事項及び回答予定は以下のとおりです」とあり、質問だけでなく、回答も書かれている。たとえば以下のような内容である。
「質問 未成年者のドナーがあったのはいつごろですか」
「答え 数年前頃です」
この尋問事項書では「原告代理人」と誤って書かれており(正しくは被告代理人)、かなり慌てて作成されたように見受けられる。実際、被告代理人からは、7月13日付で補足説明の上申書が提出された。そこには以下のように記されている。
「平成22年7月9日提出しました尋問事項書は、平成22年5月25日証人予定者××と直接面談し、想定問答をした結果である」
さらに被告代理人は、7月21日に回答部分を削除した尋問事項書を改めて提出した。
裁判で証拠として提出される陳述書の多くは、弁護士の作文であると指摘される。それ故にこそ、証人尋問での証言が重要性になる。しかし、証人尋問でも事前に弁護士が想定問答を作り、その通りに回答するだけになっているケースが少なくない。そのような証人尋問の実態を推測させる尋問事項書である。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)