現場に県警柏署員が駆けつけると、すでに火は消防が消し止めていたものの、焼け焦げた軽自動車の助手席にひとりの遺体が発見された。
警察の調べによって、遺体は市内に住む団体職員の小倉昌江さん(34)と判明した。さらに、昌江さんの自宅から、遺書のような文面の手紙が発見されていたことから、警察は自殺と判断した。そうして、捜査は早々に終了するかに見えた。
ところが、死亡した雅恵さんの両親から、警察に相談が寄せられた。
「娘には自殺するような理由なんて、まったく思い当たりません。それに、まだ小さい子供がいるのに、自殺なんてするわけがない」
この両親の相談に、柏署員にも確かに引っかかることがあった。
実は事件が起こった当日の午前7時頃、昌江さんの離婚した元夫の川原政史(45)が現場に現われた。そして、「死んだのは別れた妻ではないだろうか」などと署員に話しかけていた。
さらに、「こんなものが(元妻の)部屋にあった」と、昌江さんが書いたという『遺書』を差し出したのだ。
そこで、警察は改めて川原から事情を聞いたところ、「(昌江さんは)自分が殺した。遺書も自分が書いた」と、犯行を自供した。
川原と昌江さんは、事件の2年前に離婚し別居していたが、子供は川原が引き取り、昌江さんは子供の世話のために川原の住まいに通っていた。
そして、川原は何度も昌江さんに復縁を申し込んだが、その都度断られていた。
一方、昌江さんには別に付き合っている男性がいたようだが、すでに離婚しているわけだから、とくに問題はないはずだった。
ところが、彼女の交際関係に、川原は不快な思いだった。
「復縁を断るのも、男がいるからに違いない」
川原はそう思うようになっていった。
そして事件前夜、子供の世話に来るはずの昌江さんが、その日は来るのがかなり遅かった。
「男と会っていたに違いない。子供よりも、自分よりも別の男を優先させたんだ」
川原は、何の根拠もなしに、ひとりでそう思い込んだ。そして、長い間のたまった鬱憤が、その些細なきっかけで行動に移されてしまった。
(つづく)