朝出勤してきた警備員が、シャッターが壊されていることに気づく。慌てた警備員に呼ばれてやって来た警察。付近を捜索するが、異常なしである。
「おかしい」ということで再度捜索。
すると。
履いている靴の布地がやたら古びたマネキンが一体。
「こいつだ!」ということになり、あえなく“マネキン”は逮捕となった。靴が古びてなかったら、捕まっていなかったであろう。
泥棒はかなりのパントマイムを駆使していたのか。それなら他にも仕事はあっただろうに。
マネキンポーズとは、手を腰の横に乗せたもの。それで最初はやり過ごせたのだから、泥棒としての才能が相当なものだったようだ。「マネキンが衣料品店にあるのは当たり前である」という心理に警察さえ騙されるという素晴らしい心理戦である。
この泥棒。余罪が70件ほどあるかなりのプロで、共犯も逮捕された。
マネキンのまねをして、人を欺くとはまるでコントのようだ。だからこそ、警察も騙されかけたのかもしれない。
大怪盗『アルセーヌ・ルパン』シリーズ(モーリス・ルブラン著)の中でも、捕まったルパンが刑務所の中で、無造作に投げ入れていた引き出しの密書について、
「本当に隠したいものこそ、誰にでもわかる場所に置いておくのがいい。そんなところに大切なものがあるなど、他人は思いつかない」
と言っていたくだりがある。
なるほど。自分を隠すにも使える方法だったのである。
このマネキンになった泥棒には更生してもらい、新たなる道でその機転を活用してほしいものである。