5月11日にリリースされる、モーニング娘。'16の新曲『泡沫サタデーナイト!』 (『The Vision』『Tokyoという片隅』を含むトリプルA面)。リードシングルらしいキャッチーなメロディーラインに、ハロプロファンから「赤羽橋ファンク」(所属事務所の所在地に由来)として親しまれるディスコ調のアレンジ。いかにもハロプロ、いかにもモーニング娘。といった仕上がりになっている。
5月2日、YouTubeに公式MVが公開されると、ファンの反応が急上昇した。4月20日にラジオで初オンエアされた際には、「ハロらしい良曲」といった称賛の一方で、「ちょっとおとなしめかも」「つんく♂的変態さがなくて、物足りない」といった微妙な声もチラホラ。しかし、MVが公開されるやいなや、それらの声は絶賛一色に変化。MVの再生回数は初日で14万回を超え、YouTubeやツイッター上のコメント数も、最近の同グループには見られなかった盛り上がりぶりだ。ハロプロ楽曲を数多く手がけてきた鈴木俊介によるディスコアレンジは、海外ファンにも分かりやすいのだろう。YouTubeのコメント欄でも、海外から寄せられたものが爆発的な伸びを見せている。
ラジオでの初披露時から反応が一変した理由は、フルコーラスであることがまずひとつ。つまみ食い程度のショートバージョンでのオンエアが多いラジオでは、後半の“オイシイ”ところまで聴くことができず、楽曲の楽しさや魅力はどうしても伝わりづらくなる。特に、この曲の後半には、5月31日の武道館公演で卒業する鈴木香音をフィーチャーした見せ場もあるため、ショートとフルでの印象は大きく異なる。BSスカパー!の番組『FULL CHORUS〜音楽は、フルコーラス〜』が人気であることからも分かるように、制作時にイメージされたフルコーラスで聴かせることが、いかに重要であるかを再認識させられた。
MVの内容も、『泡沫』絶賛の大きな要因だ。近年のハロプロ各曲同様、MV制作にかけられた費用は大した額ではないだろう。キラキラと光を放つ装飾や、歌に合わせて差し込まれる歌詞スーパーなど、低予算内で工夫したのがよく分かる。前述した鈴木香音の見せ場、DJに扮した鈴木が「この曲、あと58秒で終わっちゃうんだって!」とアナウンスすると、映像の左上に「のこり58」とカウントダウンタイマーが登場するのも、洒落っ気があって楽しい。
ファンが揶揄を込めて「クールハロー」と呼ぶ昨今のハロー!プロジェクトは、高クオリティーや「クールなかっこよさ」を追うあまり、『LOVEマシーン』が大ヒットした頃のような洒落っ気があまり見られてはいなかった。そんななかでの、理屈抜きで楽しめる作品=泡沫MV。「あの頃のモーニング娘。が帰ってきた!」と、ファンが歓喜するのも自然な流れだ。
泡沫MVが絶賛されるさなか、ひとりのファンがMV中に差し込まれている「踊りたい!」「サタデーナイト!」「止まらない!」などの歌詞スーパーを「素材」としてアップすると、今度はそれを使った“お遊び”がネット上で盛り上がりはじめた。当初は、わんこそばを食べるメンバー(若干ぽっちゃり気味な某メンバーというところがポイント)の写真に「止まらない!」と乗せるなど、モーニング娘。やハロプロ画像が主に使われていたが、そのうちジャニーズのMV画像に泡沫MVの歌詞を乗せてコラージュする者も。なるほど、お祭り感の高いジャニーズMVには、「踊りたい!」や「止まらない!」といった歌詞スーパーがばっちりハマる。
もともとハロプロの女性ファン(なかには男性ファンも)には、ジャニーズファンとの“兼ヲタ”が多く、彼らの琴線に触れたお遊びはさらに発展。静止画像だけでは飽き足らず、ジャニーズ楽曲のMV動画に、泡沫MVの歌詞スーパーを乗せ、ツイッターや各種動画サイトなどにアップしはじめた。
関ジャニ∞の『EJ コースター』、Sexy Zoneの『Lady ダイヤモンド』、ジャニーズWESTの『ええじゃないか』。どれもこれもが、違和感なく楽しめるレベルでフィットしている。泡沫MVの歌詞スーパーを使ったお遊びは、さらに斜め上へと飛び火し、アニメ、宝塚、インド映画などと組み合わせた画像や動画まで登場。もともと狙った盛り上がりではないとはいえ、これだけ幅広い楽しみ方を見つけてもらえれば、『泡沫サタデーナイト!』の制作陣も本望だろう。
同じような現象は、昨年リリースされたアンジュルムの『ドンデンガエシ』でも起きていた。その際は、同曲が「アニソンっぽい」ということから、アニメのオープニング映像とドンデンガエシの曲を組み合わせるというもので、そのままアニメの放送に使用できそうな“コラボ作品”まであった。
個人が既存の音楽や映像を編集・再構成した、いわゆる「MADムービー」と呼ばれるものは、古くからネットを中心に楽しまれてきたが、厳密に言えば権利的な問題をはらんでいる。素材の使い方、広め方次第では、看過できない権利侵害にも繋がりかねない。事務所側からすれば、公には了承できない部分もあるだろう。
しかしながら、今回の『泡沫サタデーナイト!』のように、ジャンルやグループの枠を超えたお遊びを通して、ハロプロファンがジャニーズに、ジャニーズファンがハロプロに興味を持つきっかけには、充分なり得る。お遊びを通して楽曲が再生されれば、当然、PR効果もあるだろう。「ファン層の拡大に繋がる」「実際には難しいコラボをファンが実現させてくれた」ととらえ、関係各社には、ぜひともこのまま大目に見ていて欲しいものだ。
【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第26回】