「私はトークがそれほど得意というわけではないので、お客様から勧められなくてもどんどんお酒を飲む方だったんです。なので1日に飲む量が、とても多かった」
響子は元々、酒が好きだったため、店では毎晩浴びるように飲み続けた。だがそんな日々が確実に彼女の体を蝕んでいく。
「ちょっと胃が痛むな、といった前兆はあったんです。プライベートならお酒を控えることができても、キャバは仕事ですから、飲めないなんてお客さんの前で言えないですよね。だからいつもと変わらず大量にお酒を飲む生活を続けていたら、ある朝、今まで感じたことがないほどの胃の激痛に襲われたんです」
医者に見てもらうと、響子は胃潰瘍と診断された。原因は酒、タバコ、精神的なストレスによるものだという。普通ならばそこでキャバクラの仕事を辞めるが、彼女には簡単に辞めることができないある理由があった。
「実は親の借金があるんです。自分でもあまり向いてないと思う水商売の仕事を続けるのも、お金を稼いで借金を返す事が目的です。なので胃が悪いからと、簡単に辞めるわけにはいきませんでした」
そんな厳しい状況の中、彼女はいつも店に来てくれる常連にだけ、事情を思わず話してしまったという。
「そしたら彼は“今すぐに仕事を辞めなさい。お金の事は力になる”って言ってくれたんです。その言葉がうれしくて、涙が溢れました。その優しさに感動し、今は彼と真剣に交際しています」
響子は客から“お金よりも命を大切にするように”と説得された。その言葉を重く受け止めた響子は現在、キャバクラを辞め、治療に専念しているという。
(文・佐々木栄蔵)