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奈良の神社話その十 出雲より飛来した謎の女神──高市郡明日香村・飛鳥坐(あすかにいます)神社

 いくつもの宮が折り重なるように築かれ、営まれた飛鳥の地。緑濃い小丘上に鎮座する飛鳥坐神社は、そうした古代国家形成の主要舞台を見守り続けた古社である。

 社伝によれば祭神は事代主神、大物主神、高産霊神、飛鳥甘奈備三日女(みひめ)神の四座。創祀は定かではないが、大己貴命の姫神・賀夜奈留美(かやなるみ)命を飛鳥の神奈備に奉仕したことに始まるという。天長六(829)年、神託により現在地に遷座されたと『日本紀略』は記す。

 賀夜奈留美命の名は「出雲国造神賀詞(かんよごと)」に、大穴持命が「大物主を大御和の、阿遅須伎高孫根(あじすきたかひこね)命を葛木鴨の、事代主命を宇奈提(うなて)の、賀夜奈留美命を飛鳥の」神奈備に坐せて皇孫命の近き守り神にした、と出てくる。『記紀』に見えない賀夜奈留美命の出自は不明。当初は一座だったと思われるが四座とされて以降、諸説唱えられる祭神の中に、再びその名が浮上することはなかった。

 当社を著名にしているのはセクシャルな「おんだ祭」だろう。天狗とおかめによって繰り広げられる“夫婦和合”のリアルな所作には、思わず苦笑いがこぼれる。股間を拭いた懐紙は「ふくの紙(福の神)」といわれ、手にすれば子宝に恵まれるという。

 三河の「てんてこ祭」、尾張の「田県祭」、奈良県桜井市江包の「綱かけ祭」とともに西日本四大性神事の一つに数えられる奇祭。こんな大らかな祭が他にもあるのかと思いきや、当社のおんだ祭は最も異彩を放つ。つまり一番露骨で愛らしい。

 古来、一社一人で氏子はなく、代々飛鳥家が宮司を世襲する。そこに、国の夜明けから国家を見守ってきた古社の誇りを見るようだ。

(写真「境内に祀られる陰陽石」)
神社ライター 宮家美樹

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