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私はこうしてお客様に落とされた 〜如月 麗子・チーママ(31歳)〜

 まだ、私が母のお腹の中にいるころ、父は他に女を作って家を出て行きました。それでも母は、他人に弱みを見せることなく、近所のスナックで夜遅くまで働きながら、女手ひとつで兄と私を育ててくれたのです。
 そんな母が私にとっては何よりも誇りだったし、気が付けば、母と同じ世界で働くことが夢になっていたんです。

 …と、ここまでは、よくある話なんだけど、ひとつだけ厄介なことがありまして。お酒がまったく飲めないんです、私。

 もちろん、お酒は飲めないけど水商売をしてる女の子なんて、他にいくらでもいるのだけど、当時の私は、お客様と一緒にお酒を飲めない女の子なんて失礼だと思っていたから、すごく悩んでいて…。でも、実際に始めてしまえば、お酒の強さなんかより、会話術や気遣いが一番大切なんだってわかったんですけどね。

 と言いつつも、やっぱり、強制的に飲まされることもあるので、そのたびに断る理由を考えるのも大変なんですよ。

 「ちょっと、チーママ。お前もこっち来て飲めよ」
 「あら、嬉しい。じゃあ、ご一緒させていただこうかしら」
 「…おいっ。それ、ただのお茶か?」
 「ごめんなさい、私お酒が弱くて…。それに、女の子たちの送迎もしないといけないんです」

 いつも通り、新規のお客様にお決まり文句の断りを入れた私が話を続けようよしたとき、そのお客様、何て言ったと思う?

 「ふざけんな! 客の俺が飲めと言った酒が飲めないホステスなんて、さっさと辞めちまえ!」

 …ですって。そのまま、持ってたお茶を取り上げられて、ボトルのお酒を無理やり注ごうとするんですもん。そうなったら、口に含んでトイレで吐いてしまうか、隙を見て水だけのグラスにすり替えるしかないんだけど、このお客様だと難しいかなって考えていたら、同じ席にいた部下と思われる方が間を割って入ってきたんです。

 「あっ、部長! 大好きな加山雄三入れておいたんでお願いしますよ! お酒は僕が作っておくので」

 そう言って、グラスと引き換えにカラオケのマイクを渡すと、そのお客様は嬉しそうに立ち上がって熱唱し始めました。

 「とりあえず、水だけ入れておいたから」

 そう一言、無愛想に言いながらグラスを渡すと、何事もなかったかのようにカラオケに合わせて手拍子を叩き始めた彼。そんな彼に、一瞬で心を奪われちゃったんです。

 …それが今の旦那と出会ったキッカケなんです。そんな私と旦那の出会いは、今でも店の女の子の間で憧れなんて言われながら語り継がれています(笑)。

取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
http://ameblo.jp/lisa-ism9281/
https://twitter.com/#!/LISA_92819

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