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奈良の神社話その七 饅頭と印刷の不思議な縁──奈良市・林神社(漢国神社)

 垂仁天皇の命を受け、常世国から非時香菓(ときじくのかくのこのみ・橘のこと)を10年かけて持ち帰った田道間守(たじまもり)は、和菓子の祖として仰がれている。その田道間守が眠る奈良に、時を隔てて初めて“饅頭”が伝えられたという。

 奈良市内きっての古社・率川神社と並ぶ由緒を誇る漢国(かんごう)神社。市街地とは思えない静かな境内に、饅頭の祖神を祀る日本で唯一の林(りん)神社が鎮座する。創建は昭和24年と新しいが由来は古く、室町時代にまでさかのぼる。

 林神社の祭神は室町期に禅宗の僧とともに中国より来朝し、漢国神社近くに住まいした林浄因(りんじょういん)。禅宗の茶とともにいただく菓子として、小豆を使用する饅頭を考案したとされる人物だ。当初の饅頭は肉や野菜を包んだもので、今抱くイメージとはかなり違っていたらしい。その林家伝来の“レシピ”を改良し、餡入りの菓子として発売したところ評判を得たという。

 境内には、林家の発展を祈って浄因自らが紅白の饅頭を埋めたと伝わる「饅頭塚」があり、林神社はその側に菓子業者らの呼びかけによって建てられた。4月19日の「饅頭祭」には日本全国から寄せられた様々な饅頭が供えられる。

 一方で、林神社は“印刷業の祖神”としても信仰されている。これは浄因の子孫・林宗二が、初期の国語辞書である『饅頭屋本節用集』を“印刷によって”著わしたことに因んでいる。全国印刷月間中の9月15日には顕彰祭が営まれ、印刷業者らで賑わう。

 饅頭の起源については他にも説があるが、この「奈良饅頭」が足利将軍家を通じて宮中に献上され、大いに広まったのは確かなこと。菓子業界の篤い尊崇も頷ける。

(写真「『饅頭塚』と呼ばれる霊石」)
神社ライター 宮家美樹

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