中でも特に英国のスナク首相の言葉が印象的だった。スナク首相は、広島平和記念資料館の芳名録へこう記帳した。
「シェイクスピアは、「悲しみを言葉に出せ」と説いている。しかし、原爆の閃光に照らされ、言葉は通じない」
ドイツのショルツ首相は
「この場所は、想像を絶する苦しみを思い起こさせる」
と書き残した。原爆資料館がある広島平和記念公園は、爆心地のすぐ近くにあり、周辺には多くの罪なき庶民が暮らしていた場所だ。その生活が77年前、たった一発の核爆弾で消えた。
岸田首相は核軍縮に関する広島ビジョンとして「核兵器のない世界の実現」と訴え、G7の首脳たちもロシア・中国・北朝鮮に対して「核の使用や威嚇は許さない」などいろいろな注文をつけた。
しかしいざ我がこと、G7諸国の核兵器については「防衛目的の役割を果たし侵略を抑止し、戦争と威圧を防止する」と、まったく核軍縮や核廃絶と真反対の意見でまとまった。
現実的な話、第二次世界大戦後、大国同士の直接対決というものがなかったのは「核の抑止力」があったからで、皮肉なことにこのことを「核による平和」という
よってロシアや中国などが核兵器を持っている限り、西側諸国だけ核廃絶をするわけにはいかない。さらに仮に全世界の国々が「核は全部廃棄しました」「核はもっていません」などと言ったとして、それを信じてしまうのは間抜けというものだ。
現在、世界の核弾頭は推定でロシア5977発、米国5428発、中国350発、フランス290発、イギリス225発、パキスタン165発、インド160発、イスラエル90発、北朝鮮20発があるとされている。
これだけあれば何度も人類を滅ぼすことが可能だろう。しかし中国や北朝鮮は核兵器をもっと増やす予定だ。とはいえ、冷戦期のピーク時には7万発もあったことを考えると、ずいぶん減った。
今回せっかく広島でのサミットが行われたのだ。せめて核による平和や威嚇は、今後何らかの方法で低減させていこうという指針が欲しかった。しかしウクライナがロシアの核恫喝にあっているいま、平和外交よりも核による抑止や軍事力で脅威に対抗しようという話に終わった。
アメリカとロシアの間で残っている最後の核軍縮条約「ニュースタート」は、2026年2月まで有効であったはずだが、プーチン大統領が今年の2月28日に履行停止を定めた法律にサインしている。
世界はまだ核の脅威から解放されたわけではないのだ。いまや米中は「使える核兵器」を開発しているという話もある
非核国が中心になって結ばれた核兵器禁止条約について、日本はいまも不参加のままだ。ゼレンスキー大統領の電撃来日で内閣支持率は跳ね上がったが、岸田総理はどこまで本心から「核兵器のない世界の実現」を訴えていたのか?
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。