糖尿病の合併症を防ぐために大事なのが、高血糖にならないように血糖値を管理する「血糖コントロール」だ。食事や運動に気をつけていれば問題ないが、生活が不規則になりがちな年末年始は、どうしても血糖コントロールが乱れがちになる。
忘年会や新年会などが続き、食べすぎたり、飲みすぎたりして体重が増加すると、インスリンの効き目が悪くなり、血糖値も上昇してしまう。
また、人間の体には1日の生活リズムを保つ時計遺伝子が備わっているが、これが狂うと、それだけで代謝が落ちて太りやすくなる。特に年末年始は、テレビ番組も特別編成になって曜日感覚も麻痺してくるので、生活のリズムが乱れてしまいがちになるのだ。
そして、正月はどこにも外出せずに寝正月という人もいるが、そうなると筋肉量が減っている可能性がある。血糖値を下げるにはある程度の筋肉が必要だが、正月明けに血糖値が上がる人は、寝正月による運動不足が原因という人も多い。
★正月明けの生活を変える
ただし、年末年始の不摂生の影響は、すぐに出るわけではない。
品川イーストワンメディカルクリニック理事長の板倉弘重先生は、正月休み明けのヘモグロビンA1c(過去1〜2カ月の血糖状態の数値)について、次のように述べる。
「年末年始にだらしない生活をしても、正月休み明け直後のヘモグロビンA1cの数値はさほど上昇しません。実際に数値が高くなるのは2月に入ってからです。そのため、1月の数値結果を見て油断してしまってはいけないのです。人によっては年末年始の影響が数カ月続く場合もあるので、気をつけないといけません」
ヘモグロビンA1cの正常値は4.6%〜6.2%で、6.5%以上になると糖尿病が疑われる段階になる。また、7%を超えると様々な合併症の危険性が出てくる。ヘモグロビンA1cは日頃の生活習慣が反映されやすいので、日々の食事にも気を遣わなければならないのだ。
とはいえ、年末年始にごちそうを食べるのは楽しみの1つでもあるし、正月ぐらいはゆっくりと休みたいもの。無理に我慢するとストレスにもなるので、それならば正月明けの生活を工夫したほうが現実的だ。
「年末年始に食べすぎると、その結果は体重増という形で表れます。そのため、増えすぎた体重は速やかに戻すのが大事です。つまり、体重をリセットすることで血糖コントロールの悪化を防ぐことができるのです」(板倉先生)
★バランスよくおでんを選ぶ
増えた体重を元に戻すには食事の工夫が欠かせないが、外食だとなかなか効果が出にくい。そのため、自分で作る料理を工夫するのがお勧めだが、中には料理が面倒という人も少なくない。そこで板倉先生が推奨するのが、コンビニでも手軽に購入できる「おでん」だ。自分で作れば栄養成分が失われずに新鮮な状態で食べられるが、市販のものでも特に問題はない。
「大根は約12kcal、こんにゃくは約7kcal、つみれは約28kcalと、低カロリーの種が多いのが、おでんの大きな魅力です。ただし、低カロリーの種だけでは栄養のバランスが偏ってしまうので、選び方にはひと工夫が必要です」(板倉先生)
積極的に摂りたい種は、低カロリー、低糖質で食物繊維が豊富に含まれている大根、こんにゃく、しらたき、昆布など。逆に、はんぺんやちくわ、さつま揚げ、ウインナー巻きといった練り製品は、糖質が高くて血糖値を上げやすいので、なるべく控えたほうがよい。
とはいえ、食べてはいけないというわけではない。あくまで「食べすぎてはいけない」ということなので、ワンポイントでチョイスするようにしよう。それでも気になるという方は、厚揚げやがんもといった豆腐を原料にした種を選ぶとよい。
また、卵はおでんの種の中でもカロリーは高いほうだが、良質のたんぱく質が豊富なので、1個を目安に摂りたい。人気が高い牛すじは、高たんぱくでありながら低カロリー、低糖質なので、こちらもお勧めだ。
「例えば、おでん種を5品選ぶときは、大根やロールキャベツといった野菜、高たんぱくな卵や牛すじ、つみれやはんぺんといった魚系、低カロリーで食物繊維が豊富な昆布やこんにゃく、しらたきなどを組み合わせるとよいのです。また、血糖値の上昇をゆるやかにする食物繊維系の種を最初に食べると、効果が存分に発揮されます」(板倉先生)
★おでんの汁は飲まない
そして、おでんを食べる時間帯だが、朝食と昼食は普段通りでよく、おでんは夕食に食べるのがお勧めだ。とはいえ、一緒に白飯をたくさん食べてしまっては何の意味もないので、白飯の量は少なめを心がけるべきだ。可能であれば、食後の血糖値が上がりにくい雑穀ご飯や麦ご飯にしよう。
おでんと組み合わせて食べるとよいのが、レタスやキャベツ、ほうれん草といった葉野菜だ。おでんだけだとビタミン類が不足しがちになるが、葉野菜を摂ることで補えるので、栄養バランスがよくなる。また、おでんはどうしても高塩分になってしまいがちだが、生野菜に含まれるカリウムには、塩分を体外に排出させる作用があるので、フレッシュなサラダで摂取すると、さらに効果的だ。
逆に摂取を控えたほうがいいのが、おでんの味付けに大事な役割を果たしているだし汁である。少しずつ飲むと胃が温かくなり、腹が膨れて満足感がアップするので飲む人も多いが、汁には糖質や塩分が豊富に含まれているので、別の温かいスープなどを用意して、代わりに飲むようにしよう。
最近のコンビニおでんは種類も豊富。栄養バランスを考慮しつつ、自分好みの種をチョイスして、年末年始の「負債」をなくしていこう。
◉血液検査の結果を再確認!「糖尿病」の数値の目安
*チェックする項目:HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
*数値 6.5以上 → 糖尿病 5.9以下 → 基準値 5.5以下 → 理想値
◉糖尿病の基準となる
「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」の違い
*血糖値とは:血液検査をした時点での血液状態の数値。食前と食後、検査前のちょっとしたストレスなどで数値が変動し、糖尿病の数値の目安にはしにくい。
*ヘモグロビンA1cとは:過去1〜2カ月の血糖状態の数値。赤血球の寿命の半分ぐらいの時期の血糖値の平均を反映している。日頃の生活習慣が反映された数値なので、糖尿病の数値の目安にしやすい。
◉板倉先生推奨!おでん種5種のベストな組み合わせ
注意ポイント
*汁は糖質も塩分も多く含んでいるので、飲まない!
*白飯は少なめ。できれば「雑穀ご飯」か「麦ご飯」に!
つみれ(はんぺんでもOK)、卵、昆布、こんにゃく(しらたきでもOK)、大根(ロールキャベツでもOK)
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監修/板倉弘重先生
品川イーストワンメディカルクリニック理事長。認定臨床栄養指導医。東京大学医学部第三内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養研究部部長などを経て現職。『血糖値・血圧・高コレステロールを下げる食事術100』(宝島社)他、著書多数。