しかし、それによって2人はさらに荒れるようになり、友人関係がいっそう悪化していく。些細なことでも言い争いになったり、険悪な雰囲気が続いたりするようになっていく。香里が「クリスなんてやめよう」と言っても、それが原因でケンカになったりすることも少なくなかったらしい。
そうした状況で、香里は涼子さんから離れたがっていたとも見られている。だが、涼子さんのほうから「友達をやめたら、ただじゃおかない」などと脅されていたとも言われている。
事件後、香里は涼子さんを襲った動機として、「以前に交際していた男性と(涼子さんが)付き合っていたことが不愉快だった」と供述した。
しかし、それはきっかけのひとつに過ぎなかったのかもしれない。涼子さんは単に香里の元カレと、電話やメールのやり取りをしていただけとの見方も強い。
だが、事件が起きた頃には、2人の関係はかなり悪化していたため、その程度のことでも香里の神経を逆なでするには十分だった。
そこで事件前日、香里はその元カレに会って、「何で涼子と電話しているのよ」と問いつけたところ、これがもとで口論となる。これがストレスになってしまい、ヤケ酒をあおる有様だった。
その翌朝、偶然に出くわしたその元カレと、再び口論となってしまう。その直後、タクシーを拾うとそのまま涼子さんの実家へと向かった。まだ朝の6時である。
涼子さんの家では、母親が対応した。「涼子はまだ寝ている」と母親は断ったが、香里は無理やり家に上がりこんだ。そして、台所にあった包丁をつかむと、涼子さんの寝室に向かった。
部屋に入ると、涼子さんはまだ熟睡していた。香里は彼女を起こそうと頭や背中を何度もたたいてみたが、目を覚ます様子がまったくない。
香里は涼子さんが起きないことに苛立つとともに、彼女から受けた脅しや元カレとのことなどから、次第に怒りがこみ上げてきた。そして、寝ている涼子さんに馬乗りになると、手にしていた包丁を彼女の背中に思い切り突き刺した。
あわてて部屋に入ってきた父親に取り押さえられるまで、香里は十数回も涼子さんをメッタ刺しにし続けていた。かつての親友は、その時すでに亡くなっていた。(了)