「期待されて入団した吉田輝星ですが、高卒1年目の成績は1勝3敗。防御率は12・27と惨憺たる数字に終わりました。でも、12月18日に行われた契約更改では30万円微増した。ただ、一軍で4試合投げたんですから、100万円単位のアップがあってもおかしくはないと言われていました」(ベテラン記者)
“一発サイン”した吉田だが、更改交渉の席では、質問らしい質問もできなかったという。記者団の前で「金額が上がって嬉しかった」と言ったが、本心ではないだろう。一軍と二軍を往き来するだけだったプロ1年目は、「悔しさ」しかなかったはずだ。
「2年目に成長が見られなければ、並みのピッチャーで終わるかもしれませんね。リーグを代表するピッチャーになれる器ですが、オフから来春キャンプまでのすごし方を間違わなければいいんですが」(球界関係者)
日ハム関係者は「5年間は育成期間」とも語っていた。しかし、吉田には早急に着手しなければならない課題もあるのだ。
ファーム戦での吉田の登板を見たことのあるファンなら一目瞭然だ。今シーズンの吉田は、夏の甲子園とは異なる投球フォームで投げていた。投げ終わった後、体が一塁方向に流れていくのだ。外国人投手にありがちな“上半身投げ”というヤツだ。
「直球のスピードも140キロ台後半がやっとでした。甲子園での最速152キロを上回ることはできませんでした」(スポーツ紙記者)
投球フォームの異変は、本人も気付いているようだ。去る12月13日、東京都内の野球殿堂博物館で始まった「野球報道写真展2019」のオープニング見学会で、吉田は金足農時代、夏の甲子園で力投する写真パネルを見せられ、次のようにこぼしていた。
「こっちの方が、バランスがいい」
プロ初勝利を飾った6月12日の広島戦での写真もあったが、そう答えている。
「吉田は、左足への体重の乗せ方、かかとの使い方が悪いと言っていました。プロ入り以降、投球フォームが崩れ、試行錯誤しているようです」(取材記者)
しかし、吉田の肉体は甲子園時代よりも明らかに逞しくなっている。だが、原因は本人も分かっていない。前出の関係者は、次のように指摘する。
「夏の甲子園で連投し、その後も強いボールを投げ続けようとして、バランスを崩してしまったという意見もあります。もう一つは、プロ入り後、急激に体が大きくなり、筋肉量も増えたため、上半身、下半身のバランスが崩れたのか。吉田自身が肉体を使いこなせていないのではないか」
とはいえ、日ハムにも投球フォームの分析に優れたコーチはいる。なぜ、指摘しないのか、不思議だ。
「いえ、何でも教えればいいってものではない。本人が気付かなければ、意味がありません」(同)
試行錯誤を繰り返し、自分に合ったもの、適したものを見つける。それがプロというものだ。今やメジャーリーグでも指折りの投手となったダルビッシュ有や田中将大そうだった。
もっとも、この試行錯誤のループから抜け出せないまま、年齢を重ねてしまった“残念な例”もなくはない。日ハムの先輩にあたる斎藤佑樹(31)がそれだ。ダルビッシュや田中の道に進むか、斎藤の二の舞になるか…。吉田はその岐路に立たされているわけだ。
「プロ1年目のシーズンを終えて、初めての自主トレを迎えます。ここでいい練習ができるかどうかが重要になってきます」(前出・スポーツ紙記者)
自分で考え、自分で練習する自主トレの前段階とも言えるアメリカ・アリゾナでの秋季キャンプでのことだ。吉田は筋トレとフォークボールの習得に重点を置いた練習を続けていた。
「吉田がプロで実感したのは、『横の変化球では勝負できない』ということ。横ではなく縦の変化球を磨き、そこに活路を見出そうとしています」(チーム関係者)
フォークボールの握り方を少し変えるなど試行錯誤していた吉田。来季から、スライダー、カーブはオマケ程度にするようだ。この「横の変化球」をあっさり捨てたことに意味があるという。
「斎藤は球速と変化球のキレという両方を求め、どちらも習得できませんでした。右足を曲げて投げる独特の投球フォームにしても、肩を故障するきっかけになっただけ。縦の変化球のみとした吉田にはセンスを感じますね」(前出・ベテラン記者)
しかし、来季の吉田は斎藤と勝負することになる。斎藤が「オープナー専門」として先発ローテーション入りを狙っているからだ。
オープナーとは、近年、メジャーリーグで話題になった作戦で、救援投手を初回から投入し、相手の上位打線を封じる作戦だ。しかし、オープナー専門は日米初の試みで、ここには栗山英樹監督の「斎藤を何とかしてやりたい」の温情が見え隠れしている。
日ハムは投手の補強、故障組の復帰が見込めるようになったため、残り少なくなった先発枠を、オープナーの斎藤か、正当な先発完投型を目指す吉田のどちらかが争うことになる。負ければ、二軍の千葉県・鎌ヶ谷球場行きだ。
「第2の斎藤」、「鎌ヶ谷の星」にならないためにも、吉田はあの輝いていた夏の投球フォームを、一刻も早く取り戻さなければならないのだ。