巨人軍歴代2位の長嶋茂雄終身監督の通算勝ち星(1034勝)を超え、今季中には川上哲治元監督の1066勝も上回り、歴代1位に躍り出ると思われる原辰徳監督。リーグ優勝8回、日本一3回。日本の野球界に十分、名を刻んだが、つきまとうのが「巨大戦力を背景にしている」という、やっかみの声。これを払拭するために画策するのが、阪神で伸び悩む藤浪晋太郎投手の「フル再生」である。
高校時代から同学年のライバルで、いまやアメリカのメジャーリーグで活躍する大谷翔平(エンゼルス)の活躍ばかりがメディアに取り上げられ、メンタルの弱さもあって一昨年9月28日の中日戦以来、勝ち星のなかった藤浪。それが、何かが吹っ切れたのか、8月22日のヤクルト戦で692日ぶりに白星を挙げ、復活の兆しを見せた。
「この間、阪神の歴代監督、コーチ、OBをはじめ、昨オフには元中日のエースで臨時コーチを務めた山本昌氏らがあれこれアドバイスを送ったが、眠れる獅子は一向に目覚めなかった。今季も7月下旬に一軍復帰してから0勝4敗と期待を裏切ってきたが、5度目の先発でようやく初勝利。この覚醒の仕掛け人と目されているのが原監督です」(スポーツ紙デスク)
発端は、藤浪が最速154キロの直球を武器に10三振を奪った7月30日のヤクルト戦。原監督は「非常に手強いピッチャーが戻ってきたという感じ」と敵ながらその投球を称え、藤浪に「気になる存在」であることをメディアを通して伝えたのだ。
「18日に行われた東京ドームの阪神戦では、試合前の練習中、藤浪のもとへ歩み寄り、言葉を交わして激励している。復活勝利は、その4日後だった」(同)
会話の内容は、その前日に行われた甲子園高校野球交流試合で、原監督の母校・東海大相模と、藤浪の母校・大阪桐蔭が対戦。接戦の末に大阪桐蔭が勝利し、祝福の言葉を贈ったということだが、それを額面通りに受け取る人は少ない。
「ラブコールだろう。原監督はかねてより、藤浪に強い関心を抱いていた。ここ3年間で8勝8敗と低迷し、大谷との差は大きく開いたが、高校時代は立場が逆。大阪桐蔭で史上7校目の甲子園春夏連覇を達成し、ドラフト1位で阪神に入団してからも初年度から3年連続で2桁勝利を収めている。甲子園を沸かせた高校時代の藤浪の活躍を振り返ることで、失っていた自信を取り戻させたのだろう」(同)
伸び悩みに加えて、今年3月には新型コロナの感染が判明し、復帰後には練習に遅刻して無期限の二軍降格を言い渡された藤浪。今季も「放出説」が根強くあったが、矢野燿大監督は地元のスターであることから封じてきた。移籍先で活躍されては、阪神の指導能力を問われることにもなりかねないからだ。
このように、二の足を踏んでいた阪神だが、ここに来て「藤浪放出やむなし」のお家事情が出てきた。絶対的クローザーの藤川球児(40)が8月13日、コンディション不良のため今季2度目の出場選手登録抹消となったのだ。
「今季の藤川はここまで11試合に登板し、1勝3敗2セーブ、防御率7・20と苦しんでおり、古傷の肩、肘も万全ではないことから引退の危機も囁かれています。来季以降のチーム編成もあり、救援陣の立て直しは急務となっているのです」(在阪記者)
そこに聞こえてきたのが、原監督の藤浪への高評価と、余剰戦力とされて巨人の三軍でくすぶっている澤村拓一投手(32)の情報。まさに好縁談到来といえる。
「澤村は’10年のドラフト1位で“格”的に藤浪と釣り合うのと、藤浪が復活したことで、今なら放出しても阪神のメンツは保てます。澤村は、腐っても’16年のセーブ王。球威は相変わらずで、きっかけさえあれば藤川の後継者に最短でなりうるという算盤勘定」(同)
一方、原監督は澤村に見切りをつけているようで、背信投球となった澤村を“公開説教”したのは7月1日。さらに同下旬には一軍登録を抹消され、現在二軍ではなく三軍で調整させているところに“トレードの布石”が隠されている。
「今季の原監督から漂うのは、知将への『キャラ変』。それは采配にも表れていて、昨季、15勝した山口俊の穴を、毎度のFA補強ではなく、高卒2年目では桑田真澄氏以来となる戸郷翔征を開幕ローテーションに抜擢して埋めたほか、7月に楽天からトレードで獲得した変則左腕の高梨雄平を中継ぎで売り出し中。さらに、昨秋に日本ハムから戦力外通告を受け、トライアウトを経て育成選手として契約した田中豊樹に背番号19を与えた。野手でも、独立リーグ出身の増田大輝を走塁のスペシャリストとして起用し、昨季二軍の出塁率王である北村拓己を1番打者として重用している。彼らはいずれも、ドラフト下位指名の星。『原再生工場』の成果を見せつけている」(前出・デスク)
その再生工場の集大成となるのが、藤浪の完全覚醒。原監督は、知将の誉高い故・野村克也さん超えに燃えている。