「百薬の長」と呼ばれる酒も、飲みすぎると“毒”になってしまう。長時間大量に飲み続けると、高血圧や脳内出血のリスクが高まり、アルコールを分解する肝臓に負担がかかる。
アルコールを分解している最中は、脂肪の燃焼が阻害されるので、肝臓に中性脂肪が蓄積しやすくなる。その結果、肝臓障害になって、アルコール性肝炎やアルコール性肝硬変といった重い病気を引き起こしてしまう。また、すい臓の機能にも影響を及ぼし、すい臓がんの発症リスクも高まる。
このように、酒の飲みすぎは全身の様々な臓器に障害を引き起こす可能性がある。しかし、適量であれば長生きにつながることが、国内外の疫学研究で明らかになっている。酒をまったく飲まない人よりも、1日7〜40gのアルコールを摂取している人のほうが、死亡率が低いという研究結果も出ている。
適量の飲酒には様々な健康作用があり、死亡率の低下にもつながっている。血流を促進するとともに善玉コレステロールを増やし、動脈硬化から引き起こされる循環器疾患予防効果も期待できる。また、適量の飲酒は血糖値の上昇を抑える効果もあるので、糖尿病の予防にもつながる。
そもそも「酒太り」の原因は、酒そのものではなく一緒に食べるつまみにある。そのため、適量に抑えておけば、休肝日なしで毎日飲み続けていいのだ。ちなみに、1日の適量の目安(純アルコール40gの場合)は、ワインがグラス3杯(約360ml)、ビールが中びん2本(中ジョッキ2杯)、ウイスキーがダブル2杯である。また、いくら「百薬の長」だからといって、元々飲まない(飲めない)人が無理に飲む必要はない。
★見直される日本酒の常識
自らも酒が好きだと言う秋津医院院長の秋津壽男先生は、「薬になる酒」の条件についてこう語る。
「悪酔いや二日酔いしない程度にとどめることが、酒の効用を得る一番のコツです。そして、酒を酌み交わしながら会話を楽しむのも、体にいい酒の飲み方の1つです」
酒の健康効果は種類によってそれぞれ異なり、例えば、ポリフェノールを豊富に含む赤ワインには、増えすぎた活性酸素を除去する抗酸化作用がある。また、本格焼酎には血栓を溶かしたり、善玉コレステロールを増やす効果がある。
一方で、日本酒は「悪酔いしやすい」「カロリーが高いので糖尿病になりやすい」とされ、敬遠されがちだった。しかし、これらはいずれも間違った定説であり、現在は世界でも消費量が増えている。
「昔の日本酒には、酒以外の成分も含まれており、正直いって悪酔いしたり、次の日も残る質の悪いものばかりでした。しかし、今は酒用の米もたくさん作られ、醸造技術も向上しているので、そういった酒は皆無に等しいです。また、日本酒は米でできているので糖質はありますが、1日1〜1合半であれば、たとえ毎日飲んだとしても、特に問題はありません」(秋津先生)
★飲酒後のサウナは危険
ここまで見ると、酒はいいことづくめのように思えるが、今も間違った「酒の常識」がまかり通っており、酒との向き合い方を誤ると、命を落とす危険性すらある。
「酒を飲んだ後、アルコールを抜くためにサウナで汗をかく人がいますが、これは非常に危険です。なぜなら、サウナで抜けるのは水分だけで、アルコールは抜けないからです。アルコールには脱水作用や利尿作用があるので、体内に入ると水分が抜けて血が濃くなり、血管が詰まりやすい状態になります。そんな状態でサウナに入ったら脱水状態がさらに進み、脳梗塞や心筋梗塞になる危険性が高まります」(秋津先生)
「トイレが近いから、酒がどんどん抜けていく。だから今日はたくさん飲める」と考える人もいるが、これも大きな勘違い。飲酒量よりも水分として排出される量のほうが多いので、脱水症状の恐れがある。
また、「高価な酒は悪酔いしない」というのもウソで、飲みすぎれば、高かろうが安かろうが悪酔いする。高い酒は大事に飲むから、悪酔いする量に達しないだけなのだ。
「酒を飲んで二日酔いを緩和させる『迎え酒』も、頭痛などの不快感を酒でまひさせているだけということが、最新の研究で明らかになっています。二日酔いの症状をさらに悪化させ、アルコール依存症を引き起こす恐れもあるので、今すぐやめておくべき習慣の1つです」(秋津先生)
★ウコンにも注意が必要
他にも、眠れない時に酒を飲んで眠りにつこうとする「寝酒」も、体の毒になる習慣の1つだ。
「アルコールを摂取すると、1時間程度で脳の感覚がまひしますが、約3時間後にはアルコールが抜け、逆に覚醒効果が出てしまいます。一度目が覚めると、利尿作用からトイレに行ったり、脱水状態から水を飲んだりして、なかなか寝つけなくなります。その結果、質のよい睡眠が得られず、さらに睡眠時無呼吸症候群やアルコール依存症などを引き起こす恐れがあります。酒を飲んだ後にウトウトしたからといって、それが質のよい睡眠をもたらすわけではないことを知っておくべきです」(秋津先生)
最近は二日酔い防止アイテムとしてウコンが定番になっているが、頼りすぎにも注意だ。というのも、肝機能に問題がある人がウコンを大量摂取すると、肝機能障害が起きる危険があるという研究結果が、数年前に発表されているからだ。健康に問題ない人は特に気にする必要はないが、不安のある人はかかりつけ医に相談してから、ウコンを摂取するようにしよう。
酒は飲み方次第で薬にも毒にもなる。誤った酒の常識は見直し、「百薬の長」と呼ばれるほどの健康効果を享受しよう。
◉誤った酒の常識を正そう(以下はすべて間違い)
*サウナでアルコールを抜く
→抜けるのは水分。むしろ脱水症状が進み、命の危険を招く。
*迎え酒で二日酔いを軽減する
→アルコールで感覚がまひしているだけ。悪循環が生じてアルコール依存症に陥る危険性がある。
*高価な酒は悪酔いしない
→高い酒は大事に飲むので、悪酔いする量に達しないことが多いだけ。
*寝酒をするとよく眠れる
→ウトウトは最初だけで、約3時間後には逆に覚醒してしまう。
*トイレが近いと調子がいい
→飲酒量より水分として排出される量のほうが多いので、脱水症状の恐れがある。
*ウコンを飲んでおけば肝臓が元気になる
→肝機能に障害のある人がウコンを大量摂取すると、肝障害が起きる危険がある。
◉それぞれの酒の健康効果
*日本酒
日本酒に含まれるグルタミン酸が、がんになりにくい体質をつくるNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化させる。また、雑味があるほどアミノ酸が豊富で、免疫機能の維持といったさまざまな健康効果が期待できる。飲み方としては胃腸を冷やさないため、ぬる燗をチビチビやるのがお勧め。熱燗は熱すぎなければOK。
*ワイン
赤ワインに含まれるポリフェノールには、増えすぎた活性酸素を除去する抗酸化作用がある。また、老化予防の効果があるレスベラトロールというポリフェノールは、赤ワインだけでなく白ワインにも含まれている。
*焼酎
単式蒸留器で蒸留した昔ながらの本格焼酎には、血栓を溶かす効果がある。また、芋焼酎や泡盛は、「t-PA」や
「ウロキナーゼ」という血栓の溶解にかかわる物質の分泌や活性を、嗅ぐだけで高めることができる。
*ビール
原料のホップにはポリフェノールが含まれており、動脈硬化予防や抗酸化作用がある。血管年齢も若くキープできるので、認知症の中でも脳血管性認知症を予防してくれる。骨粗しょう症や更年期障害の予防にもなる。
*ウイスキー
蒸留水であるウイスキーを無糖の炭酸水で割ったウイスキーハイボールは、糖質やプリン体を一切含まないのでダイエット向き。炭酸によって満腹感も得られるので、食べすぎ防止にもなる。
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監修/秋津壽男先生
秋津医院院長。日本内科学会認定「総合内科専門医」。和歌山県立医科大学循環器内科勤務等を経て現職。テレビ東京「主治医が見つかる診療所」のレギュラー出演の他、『酒好き医師が教える 薬になるお酒の飲み方』(日本文芸社)等著書多数。