新型コロナウイルスの影響を受けて、プロ野球が予定から約3カ月遅れて6月19日に開幕することが決まり、避けて通れなくなったのが選手の年俸削減問題だ。これまで「早期開幕」を最優先に、労使一体となってコロナの感染拡大防止に取り組んできたが、最大の難所を乗り越えたことで状況は一変。球団側が「年俸減額」の協力を求め、対決色を強めているのだ。
「予定通り開幕しても、試合数は143から120試合に減少する。各球団とも収入の約6割が入場料と年間指定席料が占めており、1試合あたりの収益はおよそ1〜2億円。つまり23〜46億円ほどの減収となる。実は、この額は各球団の選手年俸総額とほぼ同額で、このままでは球場使用料や補強費、球団職員の給与まで回らない。当面は無観客試合で開催することから、収益はさらに減る。何か手を打たなければ球団の事業継続は困難」(スポーツ紙デスク)
5月12日の臨時オーナー会議で、横浜DeNAの南場智子オーナーは「プロ野球は、かつてない危機的とも言える状況。経営基盤を安定的かつ健全にしていかないと、プロ野球そのものがしっかりと存続していく保証にならない」と警鐘を鳴らし、選手の年俸削減問題に切り込む姿勢を示していた。
また、同会議では、楽天の三木谷浩史オーナーが「試合数の減少に応じた一律減額案」を提案し、同意が得られたという。しかしその後、日本野球機構(NPB)がこの案をひっくり返したことで、三木谷氏が激怒。同23日に自身のツイッターで「オーナー会議でオッケーとなったことが、現場のNPBで覆る。全く権限の無いオーナー会議だとは思っていたが、現場から完全に舐められている」と投稿していた。
ある球界事情通が明かす。
「NPB関係者がオーナー側の意向について、労組プロ野球選手会(巨人・炭谷銀仁朗会長)側に探りを入れたところ、『統一契約書には、不測の事態における減俸の条文がない。一方的な年俸カットなら、ストライキも辞さない』という情報を入手。これを忖度したことが、三木谷氏激怒の背景になったようだ」
三木谷氏の選手年俸減額案は、明らかになっていない。しかし、本誌が入手した情報によれば、「一律20%削減」だという。
プロ野球選手の年俸は、月数で割って支払われるのが一般的だが、今季の年俸の一部は既に支払われているため、減額は難しい。しかし、来季の契約更改の際に帳尻を合わせることは可能だ。そのため、オフの契約更改で今季の年俸を一律20%ダウンした金額に下方修正した上で、来季の年俸交渉をするのだという。
「20%カットがベースになれば、選手は今シーズン、好成績を収めても現状維持がやっとでしょう。しかも、球団は今季の赤字分を補填するため、ほとんどの選手の年俸を参稼報酬の減額制限いっぱい削りにかかるはずです。1億円超の選手は40%、1億円以下は25%カット。応じられないような減俸提示で退団を促すのであれば、ストも覚悟で対処する。新型コロナが収束しても、来季は開幕できない可能性もあります」(プロ野球労組関係者)
そんなオーナー側の意図は、外国人の一軍登録を4人から5人に増やす、今季の特別ルールからも見て取れる。これは、外国人の試合出場は4人のままではあるものの、先発投手が登板しない試合、他の4人を起用できるようにする。
「外国人枠が増えれば、日本人選手の出場機会が減る。阪神は8人の助っ人選手を抱え、巨人も7人…。戦力を保ちながら年俸総額を圧縮するには、外国人枠の拡大が手っ取り早い。各球団が、コストが安くて好素材が多い中南米ルートから若手選手を競うように獲得しているのも、そのため。台湾にもプロ野球チームを持つ三木谷氏は、外国人枠の総撤廃を主張し、ここでも選手会側と大きな軋轢が生じている」(巨人OBの野球解説者)
7月上旬に開幕を目指すメジャーリーグ機構(MLB)では、オーナー側が選手会に今年3月の時点で年俸を半額にする案を提示。5月下旬には、これをさらに進め、6段階の減額幅を提示していたことが明らかになった。高年俸の選手ほど年俸のカット幅が大きい仕組みになっており、現役最高年俸のM・トラウト外野手(エンゼルス)は約40億7000万円から約6億2000万円へ(約85%減)。日本選手最高年俸の田中将大投手(ヤンキース)も約24億6000万円から約3億7000万円、金額が低い大谷翔平選手(エンゼルス)でさえ7500万円から2800万円になると見られている。
「当然、選手会側の猛反発は必至。変更の可能性もあるが、このまま実行されれば、NPB最高年俸(6億5000万円=推定)の巨人・菅野智之投手がトラウトの年俸を上回り、全選手の平均年俸4080万円が大谷を凌ぐことになる。それを考えれば、日本球界もこのまますんなりいくとは思えない」(前出・デスク)
選手会側が大リーグの選手同様、ある程度身を切る覚悟を共有しない限り、開幕しても波乱が付きまとう。双方、ストライキだけは避けたいところだ。