鼻にはニオイを感じたり、加湿・加温を調整する機能もあるが、特に重要なのが、異物を除去する役割である。鼻毛がチリやホコリ、細菌やウイルスなどを絡め取り、鼻腔内の鼻粘膜が入ってきた異物を吸着する。また、鼻の粘膜を覆う繊毛が、さらに細かいホコリや人体に害を及ぼす微粒子が入り込むのを防ぐ。口呼吸だと細菌やウイルスがそのまま侵入してしまうので、除去力が高い鼻呼吸を習慣づけたほうがよいのだ。
一方で、ちょっとした鼻の異変が重大な疾患を引き起こしてしまう可能性もあると、きたにし耳鼻咽喉科院長の北西剛先生は話す。
「くしゃみや鼻水、鼻づまりといった鼻炎の症状は、生活の質を下げるだけでなく、周囲にも迷惑をかけてしまいます。例えば、マスクをしていない状態でくしゃみをすると、飛沫があちこちに飛び散りますが、一緒にウイルスが放出されると、飛沫感染のリスクが高まります。放っておくと副鼻腔炎(周辺組織への合併症や嗅覚・味覚障害・扁桃炎や気管支炎などのリスクを高める)になってしまうので、基本の鼻ケアを怠らないことが大事です」
感染症予防法としてうがいは基本中の基本だが、粘膜感染は鼻でも起こりうるので、のどのケアだけでは不十分だ。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は今後も蔓延する可能性があるので、ウイルス感染を防ぐための鼻ケアを習慣づけ、粘膜環境をしっかり整えておこう。
★鼻うがいで細菌を洗浄
基本の鼻ケアとして推奨したいのが、鼻の中のホコリや細菌を洗い流す「鼻うがい」と、乾燥を防いで粘膜を守る「オイル点鼻」だ。
粘膜が腫れていたり、繊毛の動きが弱まったりすると、ウイルスや菌が鼻腔内部にたまって繁殖しやすくなる。そうなると炎症が起きやすくなり、鼻腔内に膿がたまりやすくなる。この膿が、さらなる病原菌の増殖と炎症の発生をもたらすので、鼻トラブルをさらに悪化させる。こうした事態を防ぐためにも、鼻うがいやオイル点鼻で、鼻腔内にたまった細菌やウイルス、膿などを取り除いておく必要があるのだ。
「中には、『鼻をかめば大丈夫なのでは?』と思う方もいるかもしれませんが、それだけでは異物や膿は除去できません。しかし、『鼻うがい』とも呼ばれる鼻腔洗浄を行えば、鼻腔内にたまった細菌やウイルス、膿などを洗い落とすことができます」(北西先生)
洗浄方法は至ってシンプルで、鼻腔洗浄器を使って、ぬるま湯の生理食塩水(血液や組織液と浸透圧が等しい約0.9%の食塩水)を鼻から注入すればOKである。
ただし、副鼻腔炎が慢性化している時は、普通の鼻うがいでは症状が改善しない場合がある。そういう時は、食用の重曹で洗浄してみよう。
鼻腔洗浄用の器具は市販されているものもあるが、ドレッシングボトルなどの液体用容器の他、身のまわりにあるものを使って自分で作ることもできる。
★オイル点鼻で保湿をキープ
鼻の中が乾燥するとバリア機能が低下し、細菌やウイルスが繁殖しやすくなる。そのため、オイルをつけた綿棒を鼻の穴の粘膜に塗るオイル点鼻も、鼻うがいとセットでやっておきたい。
「鼻腔洗浄(鼻うがい)をして鼻の中をきれいにしてからオイル点鼻を行うと、鼻通りがすっきりします。また、鼻腔内の保湿がキープできるので、バリア機能の維持にも役立ちます。使用するオイルはセサミオイル(太白ごま油)、馬油(液状)などがよいです」(北西先生)
他にも、身近なものを使って鼻水や鼻づまりなどを解消するワザがある。例えば、中身の入った500mlのペットボトルを片脇に挟むだけで、鼻づまりの解消につながる。
「右の鼻の穴に鼻づまりを感じていたら左脇の下に、左の鼻の穴の場合は右脇の下に挟んでください。こうすることで鼻づまりの解消につながります。ペットボトルがない時は、硬いボールや椅子の背もたれで代用できます」(北西先生)
頑固な鼻づまりの場合は、鼻をポカポカさせて呼吸をスムーズにする「鼻カイロ」もお勧め。温めたタオルを鼻の付け根(一番凹んだ部分)から鼻の穴まで覆うようにのせ、鼻呼吸をする。これにより鼻腔内の血流が促され、鼻腔内の気道が太くなることで鼻づまりの改善につながる。
★心身を癒やすあアロマの香り
新型コロナウイルスの影響で長期の外出自粛を余儀なくされ、酒量が増えたり、運動不足で太ったり、ストレスがたまったという声もよく聞く。こうした状況の対応策として、北西先生がお勧めしているのが「アロマ」である。
「アロマの香りを嗅ぐと、芳香成分が鼻の粘膜から脳へ伝わり、自律神経を刺激します。嗅覚は五感の中で唯一情動に伝わるとされているので、心地よい香りを嗅ぐことでリラックス効果が得られるのです。感染症対策ならユーカリ、ハッカ、サイプレス(ヒノキ科)、ベンゾイン(安息香)、コパイバなどがお勧めです」(北西先生)
ストレスは免疫力の低下につながるので、あの手この手で和らげることが感染症対策につながる。そして、北西先生は、「植物との触れ合い」もストレスの解消になると述べている。
「自宅や近くの公園で、植物の変化や成長を楽しむ機会を設けてみるとよいです。色やにおいを感じることで、リフレッシュ効果も得られます」
食事もインスタントや加工食品に頼ってしまいがちだが、可能な限り様々な食材を摂れるよう工夫しよう。ちなみに、北西先生のお勧め食材は発酵玄米、細胞由来の免疫ビタミンともいえるLPSを多く含む食べ物(レンコン、めかぶ、ヒラタケなど)、各種免疫細胞を活性化させるβ-グルカン、D-フラクションを多く含む食べ物(マイタケ、しいたけなど)である。
有効な特効薬がない感染症を防ぐには、自己免疫を高めて「病気になりにくい体」になるのが最も大事だ。免疫力に勝る薬はないので、夏風邪予防のためにも頑張って「病気になりにくい体」を作り上げよう。
◉ウイルスを鼻から洗い出す
【鼻うがい】鼻腔洗浄器を使い、鼻から生理食塩水を注入。鼻腔内にたまっている細菌やウイルス、花粉などを洗い流すことで、さらなる病原体の増殖を予防できる。
やり方
(1)水を沸騰させて、30〜35℃まで冷めるのを待つ。
(2)鼻腔洗浄器の中にぬるま湯と塩を入れ、容器を振って塩を溶かす。
(3)洗面台の上に顔を突き出し、あごを引いたら、鼻の穴に鼻腔洗浄器を当てる。
(4)「あー」と言いながら、鼻腔洗浄器を片方の鼻の穴に当てて塩水を押し出して、鼻腔内を洗う(洗浄液は口から洗面台に排出される)。
(5)反対側の鼻の穴も同じように行う。ティッシュペーパーで鼻を押さえ、鼻腔内の水気を拭いて終了。
■用意するもの
鼻腔洗浄器/塩(小さじ1/2=3g)/ぬるま湯(330ml)
■手作りもできる鼻腔洗浄器
液体用容器とシリコン製イヤホンパッドを用意。液体用容器の注ぎ口にシリコン製イヤホンパッドを奥までしっかりはめる。液体用容器の耐熱温度の確認とイヤホンパッドは鼻の穴に当てるだけにするのがポイント。
※鼻うがいを奥までやろうとして、無理に吸い込んだり、上を向いて鼻うがいをしないようにしてください。強く吸い込もうとすると、耳を傷めたり、中耳炎を起こす場合があります。
◉乾燥を防いで鼻粘膜を守る
【オイル点鼻】オイルをつけた綿棒を鼻の穴の粘膜に塗ることで、鼻どおりがすっきりし、鼻腔内を保湿することでバリア機能がアップ! またオイルを片鼻につき数滴ずつ落としても効果的(口に落ちてきたオイルは吐き出す)。
やり方
(1)綿棒にオイルをつける。
(2)鼻の穴にオイルをつけた綿棒を入れて、オイルを鼻の粘膜に塗る。
■用意するもの
綿棒/オイル(セサミオイル〈太白ごま油〉、またはバーユ〈馬油(液状)〉や亜麻仁油がお勧め)
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監修/北西剛先生
きたにし耳鼻咽喉科院長。医学博士。滋賀医科大学卒業後、滋賀県内の病院、大学病院助手を経て、2005年に「きたにし耳鼻咽喉科」を開院し現在に至る。『もう悩まない! 副鼻腔炎・花粉症を薬に頼らず治す!』(宝島社)など著書多数。