高血圧には様々な要因があるが、睡眠不足や睡眠障害もその1つだ。一説には、降圧剤を飲んでも徹夜をすると薬1錠分の効果が無意味になるといわれる。
睡眠トラブルが高血圧を引き起こすのは、自律神経の中の副交感神経の働きが関係している。通常、睡眠中は体を休める副交感神経が優位になるので、血管が拡張して血圧が低下する。しかし、睡眠が足りないと副交感神経が十分に働かず、自律神経が乱れる。その結果、高血圧になるのだ。
高血圧を改善したいのであれば、夜ふかしや徹夜は控えなければならないが、みらいクリニック院長の今井一彰先生は、「たっぷり寝ていても睡眠の質が悪く、高血圧の原因になることがある」と話す。中でも、寝ている時に口が開いた状態になる「口呼吸」は、体に様々な弊害をもたらす。
「睡眠中は、口を閉じて鼻で呼吸するのが一般的です。鼻呼吸は細菌やウイルスが直接体内に侵入するのを防ぎますが、口呼吸だとそれらが直接入ってきます。また、口が開いた状態で上を向いて寝ると、舌の根元がのどのほうへ落ち込みます。その結果、気道が狭くなって空気の通りが悪くなり、いびきをかいたり、就寝中に呼吸が一時止まる睡眠時無呼吸症候群を引き起こしたりします」(今井先生)
★口テープで鼻呼吸に矯正
睡眠中に呼吸が止まると深い睡眠が得られず、眠りの質が悪くなってしまう。そうなると疲労が回復せず、副交感神経も上手く働かなくなり、血圧が上昇する。
また、私たちの口の中は唾液によってバリアが張られており、細菌の繁殖や炎症を防いでいる。しかし、口を開いた状態で寝ると口内の乾燥がさらにひどくなり、バリア機能が果たせなくなる。その結果、口の中に細菌が繁殖して慢性炎症が発生し、睡眠の質が低下する。そうなるとストレスや自律神経の乱れが生じ、血圧の上昇につながるのだ。
京都大学と滋賀県長浜市の共同研究「ながはまコホート事業」による調査でも、正常な人に比べ、軽症の睡眠時無呼吸症の人は高血圧との関連度合いが1・42倍、中等症以上の人は2・44倍もあったことが分かっている。睡眠時無呼吸症と高血圧には関連性があるので、口呼吸をやめて睡眠時無呼吸症を改善するのが、高血圧の改善にもつながるのだ。
よくいびきをかく人、就寝時に口の中が乾燥する人、朝起きた時にのどがカラカラになる人は口呼吸をしている可能性が高い。そのため、口を閉じて寝る習慣を身につけるのが大事だが、今井先生がお勧めしているのが「口テープ」と「あいうべ体操」である。
「口テープ」はその名の通り、口にテープを貼った状態で寝ること。口を強制的に閉ざすことで舌がのどのほうへ落ち込みにくくなり、いびきの軽減や睡眠時無呼吸症の改善につながる。
★口のまわりを鍛える体操
口テープの作り方は至ってシンプル。まずは医療用テープを用意し、5㎝ほどに切る。それを唇の中央に縦に貼り、その状態で寝る。鼻で呼吸できなくて苦しくなった時に口が開けるよう、テープは強く貼らないのもポイントの1つだ。朝起きたらはがし、毎晩行って、鼻呼吸を習慣化させよう。
そして、口を閉じた状態を維持させるためにやっておきたいのが、口を大きく動かす「あいうべ体操」だ。
「口が開いて口呼吸になるのは、口の周囲の筋肉(口輪筋、表情筋など)が衰えているからです。舌の筋肉も衰えるので、就寝時に舌の根元が落ち込みやすくなります。『あいうべ体操』では口の周囲や舌の筋肉が鍛えられ、いびきや睡眠時無呼吸症を改善して高血圧も改善できます」(今井先生)
まずは「あー」と口を大きく開き、次に「いー」と首に筋肉のスジが浮き出るほど口を大きく横に広げる。さらに、「うー」と唇を尖らせて口を前に突き出し、「ベー」と舌を出して下に伸ばす。この流れを4秒前後かけてゆっくりと動かし、これを1回として1日30回を目安に行う。いつ、どこで行ってもOKだが、寒い屋外だと口の中が乾いてしまう。入浴時など、乾燥の心配がない場所がお勧めだ。
★新型コロナの対策にもなる
この「あいうべ体操」は、現在も猛威を振るう新型コロナウイルスの対策にもなるのだと、今井先生は話す。
「新型コロナウイルスが蔓延する一方で、インフルエンザ患者は例年に比べて大きく減っています。これはウイルス感染症の感染経路(飛沫感染、接触感染)が共通しているので、徹底した新型コロナ対策がそのままインフルエンザ対策につながったからと考えられます。そのため、インフルエンザの予防法は新型コロナウイルス対策にも効果があるのではないかと、私は思っております」(今井先生)
現在では、あいうべ体操はインフルエンザ対策として全国の1000以上の学校、施設で取り入れられている。導入前は罹患率が40%近かったのが、5%以下まで低下したというケースもある。
「罹患率が急激に下がったのは、口のまわりの筋肉を鍛える体操を行ったことで、口呼吸だった児童が鼻呼吸になったからと考えられます。口呼吸では、細菌やウイルスなどの異物がそのまま体内に取り込まれます。しかし、鼻呼吸なら鼻毛や鼻水が異物をある程度ブロックし、空気そのものが副鼻腔で温められるので、結果として感染リスクが下がります」(今井先生)
有効な治療法やワクチンがなく、どう対処すればいいか分からない新型コロナだが、「あいうべ体操」で口や舌を支える筋肉を鍛え、「口テープ」で鼻呼吸を習慣化させることで、感染症にかかるリスクを下げることができる。もちろん、これだけで万全というわけではないので、不要不急の外出を控える、食事や生活習慣に気をつけるなど、日頃からリスクを下げる心がけを怠らないようにしよう。
◉口テープのやり方
*用意するもの:幅12㎜前後の医療用テープ(絆創膏またはサージカルテープなど)
【やり方】(1)薬局で売られている医療用テープを用意する。(2)医療用テープを約5㎝幅に切る。(3)切ったテープを閉じた口の中央部に縦に貼る。(4)そのまま就寝し、朝起きたらテープをはがす。
◉口テープのメリット
*口にテープを貼るだけで、強制的に口が閉じた状態になる。
*用意するのは医療用テープだけでOK!
*いびきや睡眠時無呼吸症が改善し、高血圧の改善にもなる。
◉あいうべ体操のやり方
(1)「あー」と大きく口を開ける。
(2)「いー」と口を大きく横に広げる。
(3)「うー」と口を前に突き出す。
(4)「べー」と舌を突き出して下に伸ばす。
【ポイント】
*(1)〜(4)を1回として、1日30回を目安に毎日行う。
*大げさなくらい口を大きく動かす。
*1回を4秒前後かけてゆっくり行う。
◉あいうべ体操のメリット
*いつでも、どこでもできる。
*いびきや睡眠時無呼吸症が改善し、高血圧も改善させる。
*インフルエンザや新型コロナウイルスの対策にもなる。
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監修/今井一彰先生
みらいクリニック院長。日本病巣疾患研究会副理事長。薬を使わずに体を治す独自な治療を行う。息育、口呼吸問題の第一人者として全国を講演で回る。著書に『自律神経を整えて病気を治す 口の体操「あいうべ」』(マキノ出版)など多数。