「国内FA権の行使と、ポスティングシステムを同時に行うんです。2014年オフ、当時、オリックスの金子千尋(現・弌大)がそれをやろうとし、未遂に終わりました。球界のルールの盲点を突いた、『WIN・WINの関係』を目指した秘策ですよ」(球界関係者)
東京ヤクルトスワローズの山田哲人内野手(27)が契約更改を終えたのは、昨年の12月24日だった。ポイントは、“契約年数”と“年俸額”の2つだった。
「大方の予想では、複数年契約が交わされなければ『国内FA権を行使して他球団に移籍する』と見られていましたが、そんな単純な話ではありませんでした」(スポーツ紙記者)
山田は7000万円増の単年契約、年俸5億円でサインした。12球団を見ても、年俸5億円超の現役選手は5人だけ。山田はヤクルト史上最高額を勝ち取ったのである。
ポイントと記した契約年数だが、山田は順調に行けば今季中に国内FA権を取得する見込みだ。「他球団には行ってほしくない。行くならせめてメジャーに…」の球団の思いから、球団側は複数年契約を提示していた。
「’21年オフに海外FA権を取得するため、それも見越して3年程度の契約年数が提示されたようです」(同)
山田が単年にこだわったのは、「他球団の評価が聞きたいから」だ。これは更改後の会見で本人が語っていたもので、「他球団の評価=FA移籍希望」が、球界の常識だ。そのへんについて突っ込まれると、「FA宣言するかもしれないし、しないかもしれないし…」と意味深に返していた山田。その表情は、記者団がザワつくのを楽しんでいたようにも見受けられた。
球団史上最高額となる「5億円」については、こんな声も聞かれた。
「今オフ、バレンティンを積極的に引き止めなかったのは、山田の高騰する年俸に備えるためでもありました。バレンティンの昨年度の推定年俸は4億4000万円。山田はそれより1000万円少ない金額でした。バレンティンは今季36歳になるとはいえ、NPB通算288本塁打、9年で8回もシーズン30本以上を放った超優良外国人です。バレンティンと山田の両方に高額年俸を払い続けることはできないとの判断からでした」(同)
こうした球団からの思い、誠意は、山田にも伝わっているという。
「山田慰留のために陰で奮闘していたのが、小川淳司前監督です。’14年に監督を退いた後、シニアディレクターとして球団の総年俸についても色々と手を尽くしていました。山田中心のチームになり、今後は村上宗隆らの年俸の高騰化に備えなければなりません。昨季は監督として、成績不振の責任を取って退団しましたが、今後はGMとして山田の慰留に当たると見られています」(同)
しかし、ヤクルトは現実的な選択にも備えなければならない。山田の慰留に全力を注ぐが、成功する保障はどこにもない。今オフの契約更改の席上では、山田の本音を聞き出すことにも神経を使ったそうだ。
「2つの夢、目標があるようです」(ベテラン記者)
1つは「メジャーリーグへの挑戦」。それに向けて動き出すタイミングをまだ決めかねているようだが、山田はテレビ番組などで「行きたい!」と、何度も口にしてきた。そして、もう1つは「東京五輪に出場すること」だという。
「山田が契約更改後の会見で語った言葉は、今現在の本音なのかもしれません」(前出・スポーツ紙記者)
’20年、’21年に高津臣吾監督を胴上げし、ファンにも応援してもらえる格好で海外FA権を行使するという流れになるかもしれない。しかし、それではヤクルトは“大損”なのだ。
「海外FAでメジャーに行かれたら、ヤクルトに移籍譲渡金は入りません。だったら、国内FA権を行使できる’20年オフにすべてのことを解決させてしまおう、と」(前出・球界関係者)
つまり、国内FA権の行使と、ポスティングシステムの“W行使”だ。
山田サイドは日米全球団と自由に交渉することができ、希望はすべて通る。その後、国内移籍に決まったら、ヤクルトには人的補償が確保される。一方、メジャー挑戦が決まれば、「移籍譲渡金」が球団に入る。仮に、山田が他球団の評価を聞いて、ヤクルト残留を決めてくれたら、それはそれで万々歳。とにかく、球団として阻止しなければならないのは、何の見返りのない海外FA権による移籍なのだ。
国内FAとポスティングシステムをW行使すれば、球団も損をしない、『WIN・WINの関係』になれるのだ。それに関連して、こんな声も聞かれた。
「バレンティンの移籍について、当初は国内FA権で他球団と交渉する予定でしたが、NPBが『外国人選手はやっぱりダメ』と、後から言ってきたんです。ヤクルトはバレンティン放出による人的補償を見込んでいましたが。山田のW行使はその仕返しみたいな意味合いもあるのかもしれません」(同)
そんな中、ポスティングシステムを利用して元DeNAベイスターズの筒香嘉智(28)がメジャーリーグのレイズと、2年総額1200万ドル(約13億円)で契約を結んだことが発表された。年齢も近いことから、山田もこのあたりの交渉になると目安にする関係者もいた。
山田が4度目のトリプルスリーを獲得したら、国内全球団はメジャーとのマネー戦争が避けられない。年俸額だけなら国外優位。巨人、ソフトバンクはもちろん、ヤクルトも最後まで残留交渉が可能だ。夢か、カネか? 新時代の争奪戦が始まろうとしている。